第14話
「才能がない」
まだ十代だった僕に、周りの大人は躊躇なくその言葉を投げた。
何をしても、どう変えてもその言葉を言われて終わり。
だが僕は諦めなかった。
必要最低限の生活だけは確保しようと、今の職場に就き、月に一度以上はオーディションを受けた。
だが、結果は思うようには出なかった。劇団についていたこともあるが、配属して五年間、主役級の役につくことはなかった。
だから、三年前にやめた。
僕の最後の役は、主人公の女性から金を巻き上げるヤンキーの役だった。公演が終わった後、同じ劇団にいたやつが大手芸能事務所に引き抜かれた、そういった話を聞いた。
その時、はっきりとした。
僕には才能なんてない。
その数週間後、劇団長に退団する意思を伝えた。
退団後、初めて受けたオーディションで映画の出番をもらった。
その時期だったんだ。それが、峯田さんに責任を押し付けた理由になる。
結局、その映画は大コケし、大赤字を叩き出すことになるとは、その時の僕に、予知出来るはずもなかった。
今年の十二月を迎えれば、父が死んだ二十七歳になる。僕には籍を入れたいと思うような彼女も、子供が出来る予定もない。
多くのロックスターは、二十七歳で死んでいる。僕がもし音楽をしていたら、売れても売れていなくても、自分で死を選ぶかもしれない。
何も出来なかった、このしょうもない人生に何も悔いはない。
ただ一つ、峯田さんに失望された事が心に残るだけで、後はもう、大丈夫かな。
しばらく、母にも会っていない。
誰も夢を急かすものもいないし、生きろと正すやつもいない。
だが、確実にタイムリミットは迫ってきている。
なんのタイムリミットか、僕にもそれは分からない。
何かに焦りを感じ、何かに追われ、何かを不安がっている。
峯田さん、彼女の声が遠のく中で僕は、自分のくだらない人生に、畏怖すらを感じ、背中に突き刺さる罪悪感を抱え込みながら、店を出た。
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