第10話

それから十五分ほど経って、玄関のドアが開く音がした。

「おーい!帰った!!めっちゃ外暑いわ。ちょっとここからコンビニ遠いなぁ。」

両手にコンビニ袋を持った菱川が、汗だくになって帰ってきた。

「うお、結構片付いてるな。」

そう言って靴を脱ぎ捨て、バタバタと部屋に入る。

そして、ダイニングテーブルの上に炭酸飲料や緑茶を出し、一緒に買ってきたのであろう、箱入りのアイスを冷凍庫に入れた。

「お前がいない間に頑張ったんだからな。」

「橋本!二人きりになったからってなんか変なことしてないよなぁ?」

はぁ。西脇さん、心配しなくても大丈夫ですよ。

隣の部屋から出てきた彼女に、テレパシーを送った。伝わったのか彼女がふふ、と目を細めて笑った。


ある程度片付いた友人の新居を見渡し、あとは邪魔だろうと首に巻いていたタオルで顔の汗を拭い、声をかける。

「片付いたし、もう帰るわ。なんかあったらまた言って。じゃこれ、貰ってくわ。」

テーブルに並べられたペットボトルのうち、赤いラベルの黒い炭酸飲料を持って部屋を出る。と、一緒に菱川も出てきた。


「お休みのところ、どうもありがとうございました。」

これほどまでの棒読みで謝礼されたのは初めてだ。

「ホントに感謝してんのかよ。」

「してるよ、ありがとな。千波、あ。彼女、なんかお前に言ってなかった?」

菱川は僕に背を向け、言った。

「まあ、お前に言えないことだよ。」

そして、勢いよく振り返り、僕の肩を掴む。

「初対面のやつにそんなペラペラ喋るかね?」

目を大きく見開き、口をへの字に曲げている顔を見て笑ってしまった。

「初対面だからじゃない。こう、だれでもいいから愚痴聞いて欲しい!みたいな時ってあんじゃん。何かを解消してほしいわけじゃなくて、ただ、聞いて頷いたり、相槌うったり、そんな感じ。」

「お前、彼女いんのか?」

「馬鹿、いねえよ。妹も時々そういうことしてたから。母さんとか女同士でも言いたくないような話。お前、あんなにいい彼女、仕事辞めさせてまで連れてきたんだから、馬鹿な真似だけはすんなよ。」

「そんなの、俺が一番わかってるよ。じゃ、また連絡するわ。飲み屋、紹介してくれよな。」

「おう、また。」

そう言って、菱川は部屋へ入っていった。


そして、僕は外観を見て、やっぱいいとこだよ、と思って車に乗りこんだ。

太陽に照らされ暑くなったシートに気持ち悪さを感じ、冷房のつまみをMAXにする。

窓を全開にして熱風を外へ送り出す。

さっきよりはだいぶ涼しくなった。

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