第7話

耳元でけたたましいサイレンが鳴った。

びっくりして飛び起きると、菱川からの着信だった。咄嗟に画面をスワイプして耳にスマホを当てる。

「ごめん、今大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だよ。」

久しぶりに聞く、周りの音に動揺しながらも菱川と久しぶりの会話を交わす。

「同級会以来だよな。こうやって話すの。高校出てからお互いバラバラになって、会う機会もなかったしな。」

「菱川、忙しいんだろ?営業部って休み無さそうだし。」

「うーん、そうでもないよ。この前入ってきた子達の新人研修も終わったとこだし。」

「それにしても、この時期に転勤なんて珍しいな。六月なんて中途半端な時期。」

「まぁ色々あって。そっちの、南町の会社で問題起きちゃってさ、尻拭いのために来年の三月まで借り出されたってわけ。まぁ期間が長くないし、来年の新入社員と入れ替わりで戻れるし、なんせ橋下がいる。知らないとこでも心強いだろ。南支部って聞いて即OKしちゃった。」

なんとかなる、大丈夫だろ。それは菱川の口癖だった。相変わらず能天気な奴だな。

「そんなんで大丈夫かよ。もし俺が引っ越してたらどうしてたんだよ。まぁ、菱川が今居る桟橋市より田舎だけど、いいとこだよ。それより、電話なんか珍しいな。」

「いや、話した方が早いかなって。今度の二十七日にそっちに行く。社宅があるから物件探さなくて良かったよ。」

「わかった。じゃ、休み取っとく。また会って色々話そうな。」

「おう、ありがとな。俺も会って話したいことあるし。じゃ、また。」

菱川からの電話を切り、天井を見上げる。

少し開いている窓からは、鉄の窓枠に水滴が当たり、トツトツと滴り落ちる音がする。

明日は休み。

耳も、いつの間にか聞こえるようになった。

まず病院へ行き、店長にメールもしなければならない。

少しは迷惑をかけたのだから、次の出勤時は何かお菓子でも持っていかないとマズイかな、と冷蔵庫を開ける。しかし、冷蔵庫の中には飲みかけの炭酸水と、賞味期限ギリギリの卵、調味料しか入っていなかった。

車で隣町のスーパーへ行かないと、冷蔵庫に食材はない。

腹は減っている、だが口に入れるものはない。

今から行くか、と思ったが明日が給料日のため、財布にはかろうじて入っている小銭しかない。銀行に行っておろさなければ札はない。しかしこの時間におろしてしまうと手数料がかかってしまう。

仕方なく仕事用のバックを漁ると、店長に貰った飴が出てきた。それを口に投げ込み、店の制服と濡れたバスタオルが入った洗濯機を回す。その間にフライパンを熱し、油を入れ、卵を落とす。蓋をして、店長に送るメールの文面を考える。


時計の針は六を指していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る