第5話
苦虫を噛み潰したような顔をした店長が、一枚の紙と戦っていた。
「原因が分からないのか、それはどうしようもないですね。」
と店長が言ったのが五日前。
耳のせいで車を運転できないため、配達は店長が行くようになった。一方僕は、一日三時間の雑務をしに、往復三十分かけて歩く。
体を動かすいい機会だ。
普段、運動しない僕の足が悲鳴を上げたのは、徒歩通勤にして二日目というあまりにも無残な結果になった。筋肉痛が時間差で来るのは、やはり歳をとったという事実を認めざるおえない。
休憩室の安いパイプ椅子は居心地が悪く、筋肉痛が、休まるどころかもっと酷くなるような気がする。なので、時間を見つけてはふくらはぎを揉む、そしてお弁当用の蓋にシールを貼る。それを時間の限り繰り返す。
そうやって、何とか三時間を有意義に過ごす。
そして、今日もなんとか乗り切った。
二時間配達をし、休憩を挟み、その後、五時間弁当を作る。これが僕のいつものルーティーンだが、こちらの方が圧倒的に楽だ。
みんなに申し訳ない気持ちで店に入り、申し訳ないと思いながら仕事をするのは少々耐え難いものがある。相変わらず耳の調子は変わらないままである。
厨房とレジのみんなは二日で慣れている様子だった。
僕は、もういっそ諦めている。
まぁ別に耳が聞こえなくなったって、少し不便なだけで、何も変わりはしなかった。だから、これから先も周りが僕に合わせてくれる。耳が聞こえない僕を哀れみ、同情し、可哀想な人だと、優しくしてくれる。
それもまぁ五日が限度だろうが。
僕は、シールや透明の蓋、輪ゴムが散らかっている机を綺麗にする。
そしてロッカーへ行き、荷物を取り出し、入口に設置してある機械を起動させる。
胸元につけている自分の名前が印字された名札のバーコードを読み取らせ、再びロッカーに入れ、休憩室を出る。
お疲れ様でした、と厨房とレジに向かって挨拶を終え、店を出る。
そしてやっと帰路に着く。
しかし、二十分も歩いて帰るのは御歳二十六の体力には耐え難いものがある。
家に着く頃には汗でインナーがベタつく。
季節の変わり目は、体温の調節が難しく、ファッションに疎い僕には、服装を考えるのにも時間を割かなければいけない。
それに、体調を崩しやすい僕には、過ごしにくい時期になる。
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