第4話

峯田さんの車に乗って、五分ほどで店に着いた。

いつもなら、異性と二人きりだと、五分も黙っているのは苦痛で仕方ない。

しかし、今日は変に居心地がよかった。

多分、彼女であったからだろう。

車から降り、普段通り店の中へ入ろうとすると、書類の入った分厚いファイルを片手に持ち、職場で使う、支給のエプロンがチラ見えしたバックを肩にかけた峯田さんに「こっち、こっち」と招かれた。

髪の毛はボサボサ、UNIQLOのステテコに、汚れが目立つサンダルを履いた、大の大人は正面の自動ドアから入れるのは、お昼のピークということもあり、躊躇するのだろう。

峯田さんのあとを着いていき、普段は使わない裏口から店内へ入った。

倉庫を通り、休憩室に入ると店長がホワイトボードを自分の前に置き、座っていた。

そして目が合った瞬間、いきなり笑い出した。

どうしたのか、いやこんな格好をしていれば誰でもおかしいと思うだろう。

僕の出勤時の格好は、上は当たり障りのないシャツに、下は規定の制服なので、僕の私服を見せるのはこれが初めてだ。

だが、実際は違った。

「本当に聞こえないんだね。」

と書かれたホワイトボードを掲げ、後ろを指さす。

そこには、焼き場担当の伊野田さんが立っていた。

180cmある僕よりも高く、ガタイもいい。あまり喋るタイプの人ではないので、僕も必要最低限の会話しかしたことがない。

すると、肩をやさしく叩かれ、現場に戻っていった。

何が何だかわからない僕は、峯田さんに視線を向けた。彼女は荷物を自分のロッカーに押し込みながら、海外ドラマに出てくるような、首をかしげながら肩を上げる仕草をした。反応に困った僕は、何もわからず、店長と向き合うようにして座った。

「今、伊野田さんが後ろでわっ!って声掛けたんです。」

なんだ、そういうことか。聞こえていればびっくりするだろう、と。

どうやら僕は信用されていなかったようだ。

「どのくらい聞こえてないのかなって。実験です。」

顔の前で手を合わせ、ごめんね、とはにかむ。

僕の目の前にも置かれたホワイトボードに、大丈夫です、と書いて店長に向ける。

そして、手に持っていた薬の入った袋から、先程もらった診断書を机の上に置いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る