第2話
医者から渡された紙には「突発性難聴」の文字があり、慣れていない難しい言葉がただ淡々と並べられていた。
どうして耳が聞こえなくなったのか、直接的な原因は、結局分からなかった。
看護師に肩を叩かれ、会計を済ませる。病院を出てすぐの薬局でなんの効果があるのか分からない錠剤を三袋分もらった。
果たして、本当に僕の耳は元の状態に戻るのだろうか。
店に報告をするため、店長にメールを送る。
「今から向かいます。」
一応、店長への報告は義務だろう。
実際、無断欠勤をしてしまったことは変わらない。今後、どう響くだろう。
薬局を出て、国道に沿り、歩く。そこを左に曲がり一本入ったところを、ひたすら真っ直ぐ。ここは裏道になるため車はほとんど通らない。
普段の通勤では使わないため、本当にあっているか分からない。だが、タクシーを呼ぶにも日常的に走っている訳では無いので、電話で呼ばないといけないのだ。しまった、看護師さんにお願いすれば良かった。交通手段はどうなさるんですか?と一言聞いてくれればよかったのに。ああ、今の時代、他人にそんな干渉しないだろう。
この道では店に行く途中に古びた電気屋がある。ふと立ち止まって、ガラス越しのテレビに目を向けると、夕方の情報番組が流れていた。
起きてからもう二時間以上経っていた。
そこには長い髪を丁寧にまとめあげ、濁った薄紫の着物を着た女性が映っていた。コメンテーターらしい。その人の意見を聞いて、一体どうすると言うのだ。
この人は、最近一日で五百万円を稼いだことのある、カリスマホステスだと言う。画面では司会者の出すフリップに、指を指し、口を早く動かしているホステスが映っている。こんなにも簡単にお金を稼ぐことが出来る人間が、テレビに出て小遣い稼ぎをしているところを見ると、正直滑稽で滑稽でたまらない。しかし僕は、その人間より富も名誉もない。
高校を卒業してすぐ「なにか」をしたかった僕は、夜行バスに大量の荷物を持って乗り込み、その「なにか」を目指して一生懸命働いた。
しかし途中でそれは何だったのか、お金を稼いでいるうちに、見失ってしまった。
多分、僕がやらなくてもよかった。
そうやってぼうっとしていると、ズボンのポケットに無造作に入れていたスマホのバイブレーションがした。
画面上にはメールアプリの通知が来ていた。恐らく店長だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます