049 少年は掘り起こす
近くにオンボロミニを停め、公園の階段を昇っていくと、懐かしい景色が広がった。
それなりに広くはあるが、芝生の広場にブランコがあるくらいで、あとは遊歩道と、ただ木々が生い茂っているだけの公園だ。
土の歩道を踏みしめながら、ゆっくりと歩く。
空気の匂いまであの頃のままだ。
「子供の頃、よく遊びに来たんだ。虫捕りしたり、サッカーしたり。刹那は身体が弱かったから見てるだけのことが多かったんだけど、母さんが生きてた頃は一緒に縄跳びを教えてもらったりもしたっけ」
つばめちゃんはおっかなびっくりという足取りでついてくる。
「飼ってた虫が死んだ時は、いつも親父と埋めに来たんだ。決まった場所があった。親父が俺に向けて何かを残してるとしたら、きっとそこだ」
この世で俺と親父だけが——今となっては俺だけが知る場所。
「ここだ」
一本の、名前も知らない大きな木の根元。
墓標もない墓の上には雑草が生い茂り、かつて俺が掘った跡などきれいさっぱり消えている。
ただ一箇所を除いて。
そこだけは雑草が生えておらず、地面が露出している。つい最近誰かが掘った痕跡だった。
親父。
来たのか、ここに。あの事件を起こす前に。
俺がその場所を掘り返すのを、つばめちゃんは黙って見ていた。パンドラの箱が開く瞬間を目撃するみたいな、不安と期待の入り混じった複雑な表情で。
シャベルが硬いものに当たる。
取り出すと、それはアルミ製のシガレットケースだった。
見覚えがある。親父が愛用していたものだ。
蓋を開ける。
「メモリーチップ、ですね」
中を覗き込んだつばめちゃんが言った。
もしかして手紙でも入っているのではと思っていたが、中に入っていたのはそれだけだった。
しかしつばめちゃんは中身を予想していたのか、持参したメモリースティックに慎重にチップをセットして、パソコンに挿した。
最後に親父が遺したもの。
「やはり……」
つばめちゃんが呟く。そして俺を見上げた。
「柊さん。二週間、これを私に預けてくれるですか」
***
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