カラレア共和国(Republic of Karjalea)

第9話 隣国カラレア共和国

《前回までのあらすじ》

オルカラド王国周辺で言い伝えられているという"キバの唄"―実際に起きている連続殺人事件と"キバ"との関連を調べるため、IPIA(国際警察庁付調査機関)から派遣された新人の久我くが春輝はるき

破天荒な先輩:富岡と共に、地図にも明記されない小国オルカラド王国を目指して向かっていた。

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オルカラド王国の隣国、カラレア共和国―ルシアン帝国とオルカラド王国の間に位置する縦長の小国で、国土はオルカラドの半分しかないと言われている。

そのカラレア共和国とルシアン帝国を結ぶ鉄道モースト鉄道の終着駅ホネに到着したのは夜中だった。

「おい、着いたぞ。ったく…いつまでダラダラしてんだよ、お前は。」

吐き気と激しい頭痛のなか、富岡さんの呆れ声が不快に響く。

(いや、だって…)

前を歩く富岡さんの背中に向かって、渾身の恨みを込めて言ってみる。富岡さんには悔しいくらい疲れが微塵も感じられない。

「こんな弾丸で行くなんて…聞いてないです…」

ぴた、と前を歩く富岡さんが歩みを止めて振り返った。心なしかお互い髭が伸びている。

「あのな、1日で行くって言った時点で、そんなの調べたら分かるだろ。」


(えー…)


たしかに、日本からオルカラドへの直行便はない。日本から行くには、ルシアン帝国最東の国際空港へ5時間かけて飛び、さらに列車で8時間かけてカラレア共和国の最東都市ホネまで行くとオルカラドへ入国できるらしいのだが…


慣れない異国の列車に長時間座っていたせいで、すっかり肩と首が凝ってしまった。学生生時代ですら、こんな弾丸旅行はした事がない。

(あー!ふかふかのベットで寝た…)


「ふかふかのベットで寝たーい、とか思ってんだろ。」

「……いや、思ってませんよ。」

「なんだよ、今の間は。まぁ甘やかされ…」

「思ってませんってば!!若いんで全然余裕です、次、行きましょう!オルカラド行きの馬車かなんかに乗るんですか?どこだ?」

甘やかされて育ったとか言われたくない。悔しいので、言葉は分からないものの馬車や車がないか辺りを探した。

「あれ…」

それらしきものは全く見当たらない。

そもそも、駅前にターミナルもなく、民家のような建物がひとつかふたつある程度で、人すら歩いていないことに気付く。振り返ると、富岡さんがニヤリと笑っている。嫌な予感がした。

「言うの忘れてたんだけど、あの山を越えないといけないんだよなぁ…」

嘘だろ。"あの山"って…

「そ、あのご立派な山脈。」

富岡さんが笑いながら指し示した先に目を向ける。

麓からぐぐっと上に突き上がった立派な山々は、ほぼ雪で覆われている。その頂上は、霧のような雲がかかっていて全然見えない。

「……」

「地元の人たちから登山者は"山の神マキシムに挑む者"って呼ばれて、ヒーロー扱いされるらしいぞ。良かったな!やりがいあるだろ。」

いや、なんでそんなに楽しそうなんだよ。この人。"めちゃくちゃ危険な山"って事じゃないか…

「良くないですよ…よくそんなテンションでいられますね…」

「まーまー新人くん。ものごとは楽しんだもん勝ちだぞ?あんな東京でチマチマ仕事しててもつまんないじゃん?たまには鈍った体動かそうぜ♪」

山を見てテンションが上がってんのか、ますます目を輝かせて屈伸をし始めた先輩に吐き気を覚えた。

「あのですね…鈍った体だからこそ、乗り越えられる気がしないんですよ。てか、東京の事務所なんだと思ってんですか…」

こんな先輩に巻き込まれて死ぬのはご免だ。東京の話が出たせいか、無性にサクラさんに会いたくなった。

「まずはガイド探さないとな。よし、行くぞ。」

無視された。ガイドって…こんな人気のないところを探して見つかるものなのか…?

ホネという町は標高が高いせいか風は冷たいし、気温もだいぶ低くなっている。迷いもなく民家のような建物に向かっていく先輩の背中に、本気で心細くなる。

携帯を見ると、電波も見事に不安定。


「東京帰りたい…」





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