第48話「拝啓、リスの正体」

 炎の渦がいまだ舞う中、アミュが、地面に倒れていた。

「アミュさん、大丈夫ですかい?」

 ペロッとアミュの手をなめてやった。どうせ話しても通じないんだし、行動で示すしかないからな。


「……、ああドラコか。心配してくれるのか。むろん、大丈夫だ。実は以前、火の耐性を付けたことがあってだな。ああ、その時のろうそくが今にも忘れられない」

 うん。大丈夫じゃないな。だけど、通常運転だ。問題ない。アミュさんは放置しておこう。それよりも……。


「うぅ、くそ、なんで最上級魔法を使えるやつがこんな村にいるんだよ。くそったれ、全員皆殺しだ。お前らよくも、やってくれたな」

 全身に火傷を負っている木村が「おおおおおおお」と吠えた。すると地面から木村と同じ顔をした子リスが五十体ほど顔を出し出てくる。

「究極合体。お前らはここで最後だ。ははははっははは」


「こいつ、まだ本気を出してなかったのか」

 僕は引き気味に木村を見る。アミュは歯を食いしばっている。リオは「ふーん」とだけ言い、笑みを浮かべている。

 地面から出てきたの子リスが、木村の方に一斉に集まってくる。木村の身体にくっつくと身体が大きくなっていき、次第に住宅二階建てぐらいまでの大きさになっていた。

「ははは、これで勝てるぞ、勝て……。あれ、あれれっれぇえええええ」


 大きな図体だけがポツンと立ち尽くしている中、一匹だけ尻尾を掴まれ、宙ぶらりんになっている子リスが居た。


「キャ、なにこの小汚いリスは、なんで復活してそうそうに上から降ってくるのよ。それになに?この周辺なんで火で焼きつけられてるのよ」

 その姿はリリィ《神楽坂》だった。少し火で髪の毛がボサボサになっている。お前、ここでずっと居たのか。驚きを通り越してびっくりだよ。僕は。

「あ、あの~、尻尾離してはもらえないでしょうか?」

 子リスがリリィに申し訳ないようなウルウルした瞳で見る。ただその場に居た全員が、リリィが持っている子リスに目を向ける。じっと全員の目線を感じながらきょろきょろと子リスは周囲を見渡した。

 目の前にいる大きくなった木村は立ち尽くしたまま動かない。これはもしや……。


「やっぱり、お前が黒幕だったんだな。なんか、急に一匹だけ種類が違うし。お前もしや大きくなるため、体から出たのか?一瞬だけど、大きな図体からなにか逃げ出すのがみえたけど、お前だったのかよ」

 僕はリリィから子リスの木村を預かり、手で尻尾を掴むと、ニヤリと笑みを見せた。

「いいこと考えた。今までおいたがすぎたんだよ」

 木村を上に放り投げた。そして、僕はさっきの感覚を思い出しながら、最後の力を振り絞り、

「くらえ、ファイアーボール、ゲッぷぅぅう」

 壮大なゲップと共に出た、火の粉は子リスの木村に直撃した。まる焦げになったネズミのようだった。そんな焦げ焦げな木村をリオさんが手に持ち、ぱくりと口の中に入れた。


「うーん。不味い。なんか肉が硬いね。龍太ちゃん、焼き過ぎだよ。焦げすぎ」

 まさかの食べやがった。確かに偏食とは言っていたのだけど、黒幕の木村を一口で。

 次第に大きくなったリスは分裂を始めて、気が付くと二階ぐらいあったリスの姿は消えていた。

 僕は、大きくなっていた木村が居た場所を眺めていたら、アミュの声が聞こえてきた。

「おーい、大丈夫か、ドラコ。ここは危ないし、もう帰ろう。きっとギルドから報酬がもらえるだろう」

 僕はコクリとうなずきながら、アミュに言った。

「ご主人、アミュさんの活躍ならば、きっと高報酬のはずです。あれだけのボスだったのですから」


 アミュがニコリと微笑んでくる。これはもしや伝わったのだろうか。

「ああ、おやつを増やして欲しいんだな。仕方がないな。帰ったら器にいれてやるからな」

 全然話がかみ合ってないですぜ。アミュさん。けど、食べるけどな。おやつは。

 僕は、周りを見渡しながら、リオを探した。その時にはすでにこの場所には居なかった。

 どこかへ行ったのかな?もしかしてさっきの木村でもあたったのだろうか。今度会った時にでも、薬草でもお見舞いとして渡そう。

「おーい。ドラコ、リリィ。さて帰るぞ」

「はい。アミュさん。今から向かいます」

「ちょっと待ってくださいよ、アミュさん、あ、そういえば薬草取れましたか?」

 アミュの歩く背中を見ながら、僕も歩き出した。リリィの返答にはアミュが親指を立てて微笑んだ。

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