第47話「拝啓、追い詰められた先には……」

 それは木村がアミュに向かって拳を振り上げた、一瞬のことだった。いきなり木村の前に火の鳥のような炎が迫ってきた。

「は?なんで火が目の前に……」

 瞬時に木村は避けた。まるで怯えるようにビクビクと。顔に手を当てながら腰が引いていた。

 その炎は僕の口からだった。驚きながらも僕は「口から火が出た!」と叫んでしまっていた。

 まさか以前までのお腹のもやもやの原因はこいつだったのか。お腹をさすりながら、もう一度同じように感情をこめて吐いてやる。

「こんにゃろー。僕をなめるんじゃーね」

 さっきより小さいけれど小さな炎が木村を襲う。再度、横ステップで避けるが、木村の顔の汗が半端なく出ている。

「こいつ、もしかして火が弱点なのか?」

 僕はニヤリと微笑む、木村は大きな身体ながら、「ゴクリ」と喉を鳴らす。

「形勢逆転だ!こんにゃろー」

 思いっきり、今までの怒りを込めて口から火を吐く。あの時、お前に卵の殻を食べられてからの恨みを晴らす時が来たぜ。それにこれはアミュさんの剣を粉々にした時の分だ!

 再度、口から火を吐く作業が続く。そして木村もヒヤヒヤになりながらも避けている。

 これで勝てる。チャンスは今まさにここしかない。僕は木村をたたみかけるように火を吐いた。

 ただ二回、三回と吐いたうちに火の威力、形が小さくなっていく。慣れてきたのか木村の方も顔に余裕が出ていた。

「もう終わりか、ドラゴン。もう魔力が尽きたのか?」

「魔力?、そんなの関係ない。僕はお前を倒せればいいんだ!くらいやがれ、僕の怒りの炎を」

 僕の口から出てきたのは、無情にも白い煙のみだった。僕の感情の炎が尽きたらしい。

 なぜだ。なんでこんな時に、あともう少しだったのに。

 次第に僕はこの場から倒れこむ。バタンと頭から。下から木村を見上げるように下唇を噛んだ。

「ドラゴン、貴様は頑張ったほうだよ、この俺様をここまで追い詰めるなんてな。はははは、愉快。実に愉快だ。ここまで追いやった分の代償を今払ってもらおうか。貴様は今俺様に食べられるんだ。まあせっかく追い詰めたんだ、五秒ぐらいなら魔王様、邪神様に願える時間ぐらいならやろう」

 木村は思いっきり僕のお腹に蹴りを入れた。大きな大木があった(木村が切り落とした)ところまで転がり込んだ。

 お前、五秒は待ってくれるんじゃなかったのかよ。「くっ」と言いながら僕は悶える。

 痛い、痛い。意識が薄っすらとなっていく。アミュさんが何かを僕に叫んでいたようだったけど、あんまり聞こえなかった。くそ、調子に乗り過ぎた。炎が出ていた段階で逃げていたら良かった。もしかしたらアミュさんだけでも助けられたのかもしれない。

悔やまれる選択のミス。一回のミスがチームを全滅させてしまうのか。肘を地面につけながらプルプルと上半身だけ上げる。

 目の前には木村が居た。「五秒立った。年貢の納め時だ。これで最後だ」拳を僕の方に向けた。その時、真っ二つになった木の後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。


「何やってるんだい?大丈夫?」

 僕は瀕死ながらに首だけを振り向くと、その姿はリオさんだった。いつも通りのにこやかな笑みを浮かべ、腰に手をおいて聞いてきたのだった。

「いや、大丈夫ではないです。……そう言えばリオさんって、最強のドラゴンなんだよね。火って使えます?」


 手を組み返し、腕組をしながら、ふふんっとばかりにドヤ顔をリオは見せた。

「もちのろんだよ。なんたって神様と肩を並べるほど強いドラゴンだからね」

 これだ。これしかない。この状況を救ってくれるのはリオさんしかいない。

「リオさん、お願いだ。火の魔法を使って応戦してくれないか?終わった後に何でもするから」

 リオはニヤリと僕の顔に近づけて笑みを見せた。少しばかり不気味な気もしたが、今はそれどころではない。

「分かった。何でもするんだね。その言葉信じるよ」

「てえめら何を話してやがる。と言うかお前は誰だ?俺の食事を邪魔するんじゃね」

 木村はリオをギロリと睨む。そんな木村に気にもせず、「ふんふん~♪」と鼻歌を歌うリオ。


 リオは手を天にあげると、木の杖がポンと現れて、その杖は光出した。聞き取れない速度でゴニョゴニョと詠唱じみた言葉を発している。

 すると次第に、グレー色をしていた空の色が次第に黒色の雲へと変化していき、まるで終焉を迎えるかのような気味の悪さを感じてしまった。

 木村は「は?」と呟きながら、

「……なんだこの魔法は……、まさかそんな、ここは誰も、それに下級者が住む村じゃなかったのかよ。これは逃げないと、くっくそ、邪魔だ、離れろ。女騎士、邪魔だ」

 その場から逃げようとした木村が言った。木村の方を見ると、足にはアミュが掴んでいた。アミュは何度も蹴られながらも、顔を真っ赤にしながら、悦の感情、喜びの笑みを浮かべている。

「私はまだやられていないぞ。ああ、もっと、私を蹴ってくれ」


 アミュさん……、こんなピンチの時にもう……。いつもの事だとしても頭を抱えてしまう。

 状況を見てください。だけど、そのおかげで木村は逃げきれていない。これも頭の部分がおかしなだけはある。あとで病院を紹介してもらわないとだけど。

 それよりも、リオさんの周辺が輝きはじめている。そして、リオは一言、つぶやいた。

「インフェルノ」


 周辺一帯が炎の渦に巻き込まれた。木や葉は一瞬に焼き払われ、見る間もなく、焼け野原になった。

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