第四章「拝啓、日常を脅かすボス」
第45話「拝啓、気持ちとは裏腹に現れた奴」
もうここには居ないのだろうか。それはそれで危険なのだが、まあ大丈夫だろう。神楽坂なら魔法も使えるし、何とかなるだろう。
今はこっちだ。少しぐらい休まないと身体が持たない。というかもう身体が動かないよ。
鳥の声が聞こえながら、気が付くと太陽が、森を照らしていた。もうお昼を越えたぐらいだろうか。今まで走りっぱなしだったものな。もうなんにも出てくるんじゃねーぞ。
僕は目をつぶった。ここは安全な地帯だろうと、敵もいない場所だと、鳥の姿を見て認識した。こっちにはアミュさんが居るんだ。雑魚モンスターなんて、気配を感じてやってくる事はないだろう。
ただ、僕の気持ちとは裏腹に、この場に居た鳥たちが一斉に逃げ出した。大きな音を上げながらバサバサと羽根の音が周囲を響かせる。
「一体何があったんだ。急な胸騒ぎは一体?」
突然の鳥達の行動にアミュは言葉を漏らす。周辺を右往左往しながら、様子を確認していた。
おいおい、凶悪なモンスターとかやめてくれよ。まさか、あいつがここまで来たというのか。
ドシンと大きな地響きが聞こえる。木がざわめき、天候が変わったみたいに風が吹き、嵐の前兆を見せる。
「おい、おい、まさか、なんでお前がここまで来るんだよ。逃げ切ったんじゃないのかよ」
僕は奴の姿を見て目を見開きながら言った。アミュは背中にしょっていた剣を取り出そうと手を無意識的に背中に伸ばすが、無いことに気付く。スッとパンチの構えを見せた。
「ふふふ、お前ら、遂にここが年貢の納め時だぜ。ちょこまかと逃げやがって。その逃げた分、お前ら二人を食べてやるぜ」
ドシンと鳴らすそいつは、洞窟であったゴリラ級のリス、木村だった。何て野郎だ。足まで速いのかよ。僕もアミュ同様にパンチの構えを木村に向ける。
「なぜ、ここが分かったのよ。ちゃんと逃げ切れたはずでしょう。あんたなんかにドラコは渡さないわよ」
「ふん。人間風情がほざきやがって。ビンビンとわかるんだよ。俺には。このドラゴンの匂いには敏感なんだよ」
驚愕の事実発見、僕は匂うのだろうか。僕はクンクンと身体を嗅いだ。確かに汗臭いのは認めよう。モンスターが寄ってくるような匂いはしてないはずだろう。もしや無意識でそんな匂いを出しているのだろうか。
僕は木村にぎゅっと睨みつける。睨みつけた僕を見て木村は「くくく」と笑う。
「ああ、懐かしいぜ。あの時もお前は睨みをきかせて俺を追い払ったよな。今はそんなの効かねーよ。お前の殻を半分以上食べた俺様にはな」
「……おい、待て、お前あの時のリスなのか。生まれた当初に僕の殻を食べやがった奴か」
「ああ、そうだ。そうだとも。まさかドラゴンにこんな効力があるとは思わなかったよ。人間の言葉やモンスターの言葉、パワーだけではなくその他身体能力向上、リスとしての生体すら変えてくれるなんてな。もうすでにここ周辺は俺様の縄張り。いつしかの夢である魔王軍に入ることも可能だぜ」
「お前がそいつだったのか。お前だけは許さない。あの時餓死しかけた辛い時間。そのおかげでリスに対する敵対心が芽生えたんだからな」
僕と木村の会話を首を傾げながら、眺めている。もしかしてアミュさんに伝わってないのだろうか。そうアミュさんをチラリ見て理解する。
「ははは、勝手に言ってやがれ。お前なんぞ、ここで俺様に食べられて終わるんだよ。まあ俺様が直々に相手するまでもない。子分ども現れやがれ」
すると木に隠れていたのだろうか。二十匹程の普通のリスが出てくる。数が結構多くないか。神楽坂と夜に会った時は二匹だったのに、まさかの十倍かよ。目の前にいるリスは木村同様にパンチを打つ姿を見せるなど好戦的だった。
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