第44話「拝啓、チャンスは今です!」

「私の剣が、なんでこんな簡単に……」

「これがレベル差と言うもんだよ。人間。さてと、お前は後で殺してやるよ。それよりもお前だ。ドラゴン。俺様の力の養分になりやがれ」

 目の前に居るリスは思いっきり僕を睨みつけてくる。くそったれ。ここで死んでたまるかよ。

 僕は腰を下ろして、地面に手を置いた。木村は指を鳴らしながら、満足気な表情を見せる。

「年貢の納め時だぜ。ああ、よだれが出てきたぜ。あの時みたいに卵の殻だけじゃなく、肉体自体を食べられるかと思うと、今からでも最強の自分がイメージ出来るぜ」


 どんどんとボスリスは僕に近づいてくる。くそ、どうする。このままでは僕、アミュさん共々に死んじまう。考えろ。僕。今までの経験を思い出せ。

 僕は地面に手を置いて、土を取り、近づいてきたリスの木村の目に向かって投げた。

「く、くそ、何しやがる。目が、目が……」

 木村は悶えながら、目を押さえ、動きが止まっている。

 僕はアミュの服を引っ張り、出口の方向に手を指さす。そんな僕を見てアミュは口を開く。

「え?ドラコ、今のうちに逃げろって言ってんの?」

「そうです。今しかチャンスはないです」

 聞こえてないだろうが、今しかない。ここで逃げないと全滅してしまう。もうクエスト自体はクリアしているんだ。ここでこいつを倒しても意味がない。なれなら、仲間を集めて大人数で行ったほうが勝てる可能性が上がるしな。

「分かったわ。ドラコ。今は逃げましょう。くっ、私に剣は残念だけど、ここは仕方がないわね」

 ゴリラ級のボスリスが悶えでいる中、僕とアミュはこの場から逃げ出した。

「こら、逃げるんじゃねー。く、くそ、目が開かない」

「このまま悶えてろ、くそリス。お前らなんてギルドの仲間を集めて戦えば敵じゃねーんだよ。ばーか、ばーか」

 僕は最後に大声で言ってやった。アミュは何を言っているんだろう、と首を傾けていたが、リスには少しばかり因縁があるんです。それは以前語った最初の頃の話だけどな。

 二人は全力で逃げた。洞窟から出てきた頃にはそのボスリスの木村の姿は見えなくなっていた。



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「ハアハア、ようやく逃げ切れたわね。まさか私の自慢の剣が破壊されるとは思わなかったわよ。はあー。出費が増えるわ」

 息を切らしながらも、頬っぺたに手を押さえるアミュがため息を吐いた。

 あの重たい鎧を着て、全力疾走するとは凄い体力だぜ。まったく。だけど、本当に逃げ切れてよかった。あんなの戦っていたら全滅だったぜ。

 ただ、この洞窟には強モンスターは居ないはずだろ。リオさんや神楽坂、も言っていたんだけどな。もしかして、あいつら嘘をついたのだろうか。今度会ったら文句の一つぐらい言ってやろう。

 一気に山を降りて、神楽坂リリィが居た場所付近まで来た。一回来たことがある道ならば、心なしか足取りも軽かった。途中で敵の姿が見えなくなったのも理由の一つかもしれない。

 ただ、全力でここまで戻ってきたので、もう足がガクガクだぜ。

 僕はその場で倒れこんだ。草木がベットの感覚だ。このまま寝そう。寝ていいかな?

 チラリと僕はアミュを見た。アミュも同様、膝に手をついて「ハアハア」と息を切らしていた。

「やはり、坂道だとしてもあれだけの距離を全力疾走したら、さすがのアミュさんもしんどいんだな」

 ボソリと僕はつぶやく。ニコリとアミュも笑みを浮かべて僕を見る。

「ドラコ、よく頑張ったわね。さっきの状況はさすがに危なかったわ。まさかあの洞窟にあれだけの危険なモンスターが居るとは思わなかったわ」

 本当に運がいい。このまま戦っていたら、今頃はアミュさん同様にアスナのもとに居たかもしれない。

 横になりながら、チラリと周辺を見渡す。まだ神楽坂リリィはまだここに居るのだろうか。居たら返事しやがれ。僕は「おーい」と叫んだが、何にも声が聞こえなかった。

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