第43話「拝啓、ゴリラ級のリス」

「これで薬草五個目。ようやく揃った!」

 僕は手に薬草を握りながら、その場で倒れこんだ。ようやく足を止めることが出来る。地獄の終わり、ようやく休憩という光を手に入れたからだ。その原因を作ったアミュさんはと言うと、その場で倒れこんでいた。やはり無理が来たらしい。そりゃそうだよな。ずっと速足で歩いていたわけだし。ここは一体どこなのだろう。アミュの持っていたランプの光りが壁を照らしているけれど、周りは闇だった。


「ここから戻れるのだろうか。一体どこなんだろう。薬草は奥底のこの場所にしかなかったし。ここが隠し場所だったのだろうか」

 さっきまで薬草のやの文字すらなかったのだけど、この場所一帯だけは何本も生えていた。

 ここがリオさんの畑なのだろう。

「一個くらい貰ってもいいのかな。いただき!」

 僕は地面に生えている光り輝く薬草を手に取った。薬草ってなんでこんなに光っているのだろうか。やはりこの光が万能を物語っているのだろうか。

「これでアミュさんの激辛料理を食べてもいけるぞ。胃腸炎になっても大丈夫!」

 ギュッと僕は握りこぶしを作る。ようやく僕にも春が来たぜ、好きな人と同じものを食べる。こんな異世界では考えもしなかったことだ。この万能薬さえあれば僕はなんだって出来るるぜ。

「もう一個採ってもバレないでしょう」

「おーい、ドラコ、何しているの?喉が渇いたでしょう?お水でも飲みなさい」

 アミュはリュックから水を取り出し、器に水を入れる。僕はその器を口につけると、ぺろぺろとなめて水を飲んだ。

「さてと、飲んだら戻るわよ。リリィは見当たらないから、探しながら行くしかないけれどね」

 アミュは頬に手を置きながら、「はー」とため息を吐く。

「一体どこに居るのかしらね。これだけ探しても見当たらないなんて」

 そうですね。どこに居るんでしょうか。僕は心の中で棒読みで答えた。神楽坂ならば大丈夫だろう。何とかやっているよ。知らないけれど。あいつは丈夫なので。

 僕はアミュを見つめながら、心の中で言った。どうせ僕が喋った言葉なんて聞こえないしな。


 すると大声で怒鳴り散らす声が聞こえてくる。

「おい、てめえらなにしてやがる。俺の縄張りでよ」

 えらいハスキーボイスな声をした大型なリスがそこに居た。片目には傷がついていた。

 アミュと僕はビクリとなりながらも、戦闘態勢に入る。

「え?なに?なんでこんな大型モンスターがこんなところに居るの?」

 アミュが背中に背負っていた剣を抜いて、構える。確かに、なんでこんな大型モンスターが居るんだよ。ここは雑魚モンスターしかいないんじゃなかったのかよ。


「お前らにここの場所を知られたんじゃ、生かしておけないな。死んでもらおう。ん?ドラゴン?なんでこんなところに、お前は食べてやる」

 こいつ、僕を食べるだと、とんでもないやろうじゃないかよ。弱肉強食のこの世界じゃ仕方ないのか。ただ、リスって肉食だったんだと驚いた。

 ただ、こいつどこかで見たことあるんだよな。なんだろう、どこかで。忌々しい目の傷とかリスとか。けれど、リスには僕も恨みはあるからこいつにも当たってやろうという気もあるわけで。

 ただ、大きさ的にもリスじゃなくて、大型のゴリラだ。だけど、形はリス。何を食べたらこんなに成長するのだろうか。リス自体こんなに凶悪な動物なのだろうか。

「お前は誰だ。なぜリスが言葉を喋る?なぜ、こんな洞窟なんかに居るんだ?」

 アミュは目の前に居るリスに喋りかけた。リスは鼻で「ふふ」と周囲をバカにするかのような笑みを浮かべる。

「そんなの今から死ぬ相手に教えてもな。この木村、とある食材を食べ、進化の過程でこうなったとかしか言えないな」

 言ってるじゃん。と僕は心の中でツッコミを入れた。声に出したら即狙われたらたまったもんじゃない。

 ここは戦略的撤退の方が良いのかもしれません。アミュさん。僕はアミュに目線を送る。伝わってくれればいいのだけど。

「ふん、お前如き、私が屈せるわけはないわ。モンスターの木村め、体から邪悪な雰囲気が出ているんだよ。ここで成敗します。騎士ナイトの名のもとに」

 アミュは背中に背負っている剣を抜き、ゴリラ級のリス、木村に剣先を向ける。

 あ、やる気ですか、そうですか。逃げないんですね。はい。

 僕は仕方がないので、ファイティングポーズを取る。大きさ的にも一発でも喰らってしまったら致命傷になりそうだ。間を取りながら、ステップをした。

「ふん。女騎士ナイト如き、興味はないんだよ。目の前に居るドラゴンの方が興味あるね」

「お前にドラコは渡さない。ましてや、食べようとしている奴には」

 アミュは台詞を言いながら、終わるまでに間で切りかかった。だが無情にもブンと言う音が聞こえてきただけで、目の前に居る木村リスは人間をあざ笑うように大笑いしながら、アミュの剣術を避けた。

「な、なんだと……」

「はははははは、こんなものか。俺様には勝つことは不可能なんだよ。ましてこんな初心者しかいない村だ。助けも来られない。絶望すればいい」

 なんだよ。あいつ、アミュさんの剣術を簡単に避けやがっただと。大きな初心者殺しを倒したアミュさんだったのに。

「次は俺様から行かせてもらう。くらいやがれ、俺様の右ストレート」

 ゴリラ級のボスリス、木村はアミュに向かって右腕の拳を勢いよく、振るった。アミュはとっさに剣を盾代わりに使う。しかし、パンチの威力の方が強かったようだ。一瞬にしてパリンと剣が砕け散った。

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