第42話「拝啓、見つからない薬草」
「全くないじゃないかよ。もしかして乱獲された後なのだろうか。リオさんも言ってたし、チクショウ、人間め、取り過ぎなんだよ」
僕は独り言を洞窟内で吐いた。ただ、僕の言葉を理解できる者はここには居ないから、聞いてくれる人もいないわけで。
隣に居るアミュは止まらずに、真面目に薬草を探している。一歩も止まらず、息を荒げながら頑張っている姿が目に入る。
本当に凄いと思う。ただの人間のはずなのに、ブラック企業で働いてきた僕ですら、尊敬してしまうレベルだ。……、こんなことで弱音を吐いてはダメだよな。僕もアミュさんを見らなわなくちゃな。
ガクガクとなっている足に鞭を打ちながら、歩く。奥底にあるのかな。
アミュという希望をよそに、洞窟の暗闇と同時に真っ暗な不安も浮かんでくる。
なんでそんなに頑張れるんだろう。アミュさんは本当に凄い人だぜ。僕はアミュの顔を眺めながら、綺麗な人だよなと心の底で思いながら見て居た。ただ見つめていくうちに一つの疑問が頭に浮かんでくる。
「ん?なんでにやけながら歩いているんだ?それに頬のところもなんだかほんのり赤い。それにハアハアと声を荒げている……」
僕は深く彼女を観察するようにした。なんだか様子がおかしい。もしかしてあのヒルの影響が今出てしまっているのかも。それだと非常に危険だ。それにここは人知れぬ洞窟の中だ。助けに呼ぶにしても不可能に近い。何もないことを祈るしかない。今更そんな状態異常なんていらないぞ。
注意しながらも、奥へ奥へ、二人で進んでいく。だんだんと気温が低くなっているのが分かる。鳥肌が立ってきた。やはり外と洞窟じゃ気温が違うのか。ぽとりと真上、尖った岩から雫が落ちる。
「うわぁあぁ、びっくりした。心臓が飛び出しそうだったぜ。アミュさん、大丈夫ですかい?」
僕はアミュの顔を覗き込んだ。先ほどと同様に息を荒げながら歩いている。堂々と歩く足、本当に尊敬に値する。アミュさんに一緒に行動できる事を誇りに思わないといけない。
後ろから歩く僕はアミュの横顔をジッと見つめる。なんだろう。いつもと違って変な声が聞こえてくる。
「うん、あぁあん、なんだが気持ちいい。この強制されている気持ちは何だろう。んーん」
「いや、違う。もしかしてこれは、いつぞやのお店の時に起きた、ドM状況じゃないのか」
アミュの顔をじっくりと見てみると、鼻息を荒げ、頬を真っ赤にしていた。僕は背筋がゾクゾクと感じる。そして、絶望が顔を出してくる。
「もしかして、これは休憩がないのではないパターンなのでは。アミュさん、正気に戻ってくれよ」
「ああ、もっと歩く、この足が折れようとも、この快感、強制される気持ちを存分に……」
ああ、ダメだ。こうなったら何にもできない。もうこうなったら早く薬草を見つけるしかない。どこにあるんだよ。チクショウ。神楽坂も早く戻ってきやがれ!。
二人は、山の洞窟、奥底まで止まることなく、足がガクガクになるまで歩いたのだった。
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