第38話「拝啓、龍太流、起こし方」

「もしかしたら、気を利かして朝ご飯に何か取ってきているかもしれないわね。そうだわ。太陽も出てきていることだし、朝ご飯にしましょう」

 アミュは、ニコリと僕に笑みを浮かべる。水を汲むため、森の中に入っていく。

「ドラコはここに居なさい。もしかしたらリリィが帰ってくるかもしれないから。少しだけお留守番してなさい」

 アミュは僕にそう言い残し、森の中に入って行った。


 寝ている神楽坂と二人っきりになったので、僕は神楽坂の身体をゆすって起こしてみた。

 だけど、むにゃむにゃ言うだけで全く起きる気配がない。

 だったら手をギュッと摘まむ。これまた起きない。それじゃ、わき腹をつんつんと触ってみる。これだったら起きるだろう、そう思いながら顔を近づける。

「すーすー」

 こいつまだ寝てやがるのか。何をやっても起きないのだろうか。くっ、仕方がない。早く起こさないとアミュさんが戻ってきたら何にも対応できないからな。

 僕は、不気味な笑みを浮かべながら手を神楽坂の鼻に突っ込んだ。すると僕と神楽坂の目がぱったり遭い、神楽坂は目を見開いた。

「あんた、何やっているのよ。嫌がらせ?いたた、早く手を除けなさい」

 神楽坂は涙目で僕に声を低くして言った。僕はスッと手を抜き、地面でがっつり拭くと、何食わぬ顔で鼻で笑ってやった。

「つい君の鼻が突っ込んでくれと聞こえてたから……」

「私の鼻は会話出来るのかよ。鼻で笑ってんじゃないわよ。っていうか意味わかんない。わき腹触ってきた時から起きてるわよ。ずっと仕返ししてやろうと思って待っていただけよ」

 こいつ真正のくそだろうか、起こしてただけなのに淡々と仕返しを考えてたなんて、本当に敵なのだろうか。

 いや、本当の目的があるはずだろう。この姿、早く言わないとアミュさんが戻ってきかねない。

「おい、そんなに鼻の話がしたければ、花にでもしてろ。それより、お前、今狐の姿になってるぞ」

「はぁー。花は花粉症になるから嫌いなのよ。って、ええええええーーーー。本当だ、なんで戻ってるの?」

 知らん、と言いたいところだけど、あのヒルのせいだろう。魔力を吸い取られ、戻っているだけなのだろう。

「あ、なんだか、力が入らない。え、え?どうして?」

 神楽坂は立とうとするが腰をペタンと地面に落とす。やはり魔力を吸われてたのだろうか。こいつのだけヒルが膨大にデカかったし。

 神楽坂はキィっと僕を睨みつける。

「あんた、私に何かやったでしょ。魔力を吸い取る何かを。ああ、せっかくアミュさんと甘いひと時を過ごしていたのに、あんたのせいで台無しよ」

「何にもやってねぇーよ。僕のせいにするんじゃね。被害妄想野郎が、あのヒルにやられたんだよ。さっき僕が助けてやったんだよ」

 何もかも僕のせいにされてはため息しか出ない。僕は頭を掻きながら、神楽坂を見る。神楽坂が横倒れているヒルを見た。

「なんで、魔力を吸うヒルがこんな山奥で居るのよ。初心者殺しよりも厄介なモンスターじゃないの。魔力の低いモンスターしか生息しないここでは、こんなモンスターなんて生息しないはずなのに」

 神楽坂は口を手で覆いながら、体をガクガクと震え、慌てている。

「それより、もうすぐアミュさんが戻ってくるぜ。どうする。変身できそうなのか?」

 僕は困惑する神楽坂に聞く。神楽坂は首を横に振る。

「今は無理、だって立てないんだもの。もう身体の魔力はすっからかんよ」

「それじゃどうするんだよ。アミュさんにはどう説明する。もう一晩ここにって、それは嫌だぞ」

「もう、分かったわよ。少し待ってよ。んー、それじゃ、私はここに残るわ。だって動けないんだもの」

 腕組をしながら、神楽坂は目をつぶり、ゴクリと喉に溜まっていた唾をのんだ。僕も神楽坂同様に、腕組をした。

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