第37話「拝啓、目の前の正体は?」

「おい、お前、何者だよ。お前アスナじゃないな」

「わ、私はアスナよ。信じて、あなたに頼みごとがあってきたのよ」

「嘘つけ!お前には血の匂いがしたんだよ。妹はそんな匂いはしないんだよ。そう、柑橘系っていうか、鼻から癒される匂いがするんだよ」


 アスナ?は必死で首を横に振る。「私は本物よ!」と連呼する。僕は、威嚇をしながら、

「お前の口の中にある牙、そして、僕の事は龍太じゃなくて、おにいちゃんと呼ぶんだよ。もう証拠は揃っているんだ。姿を明かしやがれ」

 僕はそうアスナ?に言った。すると、いきなり目の前の景色が歪み始め、吐きそうな気分になった。

 目の前に居るアスナ?がヒルの姿になったところを見て、再び、僕は目を覚ました。


「は!、え?さっきのは夢だったのか。ハアハア」

 なんだろう、急な疲れは、眠りに落ちる前よりも疲れている気がする。僕は額の汗をぬぐおうと手で触る。するとぐにゅと音がした。

「え、え、何これ?」

 僕の額に何か付いていたらしい。それを手で取り確認すると、一匹のスライムみたいなヒルだった。

 もしかして、こいつが僕に悪い夢を見せていたのだろうか。心なしか、このヒルみたいな奴から、力を感じる。本能的、僕のカンだけど。


「助かって良かったのか。ここはモンスターなんかいないはずだろ。なんで体力を吸うモンスターなんて居るんだよ」

 仕方がないので、目の前にあった木の棒でヒルをぶっ叩いた。緑色の血がトロリと出て、ピクピクとしている。

「さてと、アミュさんらは大丈夫か……」

 案の定、アミュ、神楽坂の額にはヒルが二体もいるわけで。

「やっぱりそうかよ。待ってろ。今助けてやるからな」

 僕は勢いよく、木の棒で二人の額にくっついているヒルを剥がした。おいたをし過ぎたようだな。

 僕の爪で勢いよく引っ掻いた。さっきのヒル同様に、トロリと血が出て萎んでいった。

 幸い、二人は幸せそうな笑みをしながら、眠っていた。アミュさんはともかく、魔力を使う神楽坂は大丈夫なのだろうか。少し吸われた僕ですら、力が抜けていったというのに。


 次第にリリィの姿が見る見るうちの、神楽坂の本来の姿、お狐の姿になっていく。

「こりゃ、ダメそうだ。誰だよ。この山には危険なモンスターは居ないって言った奴は。普通にいるじゃん」

 僕は「はー」とため息を吐いた。すると何事もなかったかのように「うーん」とアミュが起きてきた。

「え?ウソ、私寝てたの?」

 アミュは周りをきょろきょろと見ながら、胸周辺を手で隠しながら、頬を赤らめる。

「なぜか、力があんまり入らない。何かあったんじゃ……、え?リリィの姿がない?」

 大丈夫ですよ。少しのトラブルがあっただけで、そんなたいそうなことはありませんでしたよ。ただ、神楽坂,てめぇは重症だけどな。

 うつ伏せに横たわっている神楽坂を無視しながら、僕はアミュに駆け寄った。


「え?もしかしてドラコ、ここを守ってくれてたの?えらいわ。さすがドラコだわ」

 僕の頭をなでなでと撫でるアミュ。最高でございます。ありがとうございます。手を合わせてもいいよね。

「もうやめなさい。私は神様でもないわ。手を合わせて崇めるのは止めなさい」

 怒られちまったぜ。ただ後悔はないぜ。褒められたからな。ふふーんだ。後で神楽坂に自慢してやろう。

「本当にリリィはどこに行ってしまったのかしらね?うーん。勝手には動けないし……」

アミュは顎に右手を置きながら、「うーん」と考え込む。実際、魔力を吸われ、元の姿になっているし、目の前の神楽坂を指さしてリリィが居るとは言えないし……(そもそも言葉が通じない)。

 次第に星空が見えていた空、月が沈み、太陽が見えてきた。

 太陽の光が周辺を照らし始めた時に、アミュはパンと掌で音を立てた。

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