第35話「拝啓、体力の限界」

「生まれなんて深くは考えても仕方ないです。今を生きなくちゃ、生まれがすべて決まるわけじゃないですよ」

 リオは「ふふ」と軽く笑った。そして、いつものように目を細め、ニコリと笑みを見せながら「そうだね」と一言僕に言って、目の前の火を見つめていた。


 ぱちぱちと、火花が跳ねる。僕の瞳か虚ろになってきた。なんだか眠たい。やはり、昨日寝てないのは辛い。アミュさんとリリィ(神楽坂)は既に夢の中だし、その姿を見ていると、僕も寝ていいのかな?すら思えてくる。

 リオはそんな僕を察してなのか、ポンポンと頭を撫でた。

「君もやっぱり、子ドラゴンだね。眠い時は寝ていいんだよ。目の前の二人がきっと守ってくれるさ」

「……がっつり寝ていますけどね」

 苦笑いしか出ない。しかし、リオさんの言う通りに寝てしまうと、危険な気すらしてくる。ああは言っているのだけど、ここはモンスターが出るかもしれない、山奥だ。普通はここに一人は起きてないとパーティーは全滅するはずだろ。

「今は眠れません。もし、モンスターが出てこられたら僕達は全滅しかねないです」

僕は引きつった顔でリオに言った。リオは首を傾げながら、頭にハテナマークを浮かべる。

「この薬草の効果で、普通の雑魚敵は寄せつかせない匂いを発しているから大丈夫だと思うけど」


「そうなの!あ、てっきり、モンスターだらけだと思ってました」

「いやいや、モンスターだらけだったら、彼女らも寝てられないと思うけどね」

 リオはクスクスと僕を見つめながら笑った。僕は後ろの頭をポリポリと掻いた。

「それじゃ、僕も寝ます。もう体力の限界なので」

 僕は地面にバタンと横たわった。リオは「んー」と背伸びをしてから、座っていた岩から立った。

「それじゃ、ボクはおいとましようかな。この山を越えて魔王軍の城まで行っていたから疲れちゃった」

「え?魔王軍の城とかあるの。もろラノベじゃん」

 驚き過ぎてタメ語になってしまった。詳しく話を聞きたいけれど、もう体力の限界みたいだ。

「ラノベはどんなものか知らないけれど、龍太君と以前初めて会った時、別れてから山に向かっていたら、途中、とある人間に出会ったんだ。その人間は「私は転生者だ。お前が僕の指定したドラゴンか!」なんて言われてね。ムッとしたけれど、我慢してたよ。話を合わせてたら、いきなり「魔王軍討伐するぞ、お前。この世界を救うのは私だ」って言うものだから、一日二日かけて魔王軍の入り口まで連れて行ってやったのさ。本当に失礼な奴だったよ」


「え?転生者?」

 ふと、声が出てしまった。もしかして、アスナが言っていた転生者ってその人じゃ……。

「愚痴を聞いてくれてありがとう。龍太君また会うことが出来たら、また話そう」

 リオの身体が光出す。そして、ドラゴンの身体になっていく。いつみても幻想的だ。綺麗な身体をしている。

 だけど、それどころじゃない。まさかリオさんが転生者と関わっていたなんて。詳しい話を聞かなくちゃ。僕は疲労感が身体中にあふれている中、鞭を打ちながら、声を出した。

「リオさん待って……。まだ話が……」

「それじゃ野暮用があるからさ。また会おう」

 僕の発した弱弱しい声はリオの翼から吹かれる音にかき消された。リオは山奥に飛び立っていった。

「行っちゃった。チクショウ。ここの世界の住人は話を最後まで聞かないやつばっかりなのかよ」

 僕は「はー」とため息を吐いた。そしてふと頭の四隅にあった話題を思い出した。

「あ、忘れてた。湖のお水の味、美味しい事伝えてなかった。まあ次会った時に伝えるか……」

 次第に瞳が閉じていき、僕は意識を失っていた。

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