第31話「拝啓、男らしいところ」
街の出口付近にあるゲートを抜けると、平坦な道が続く。普段は馬車が走っているらしいのだけど、モンスターが最近うろついていると馬主が言っていた。護衛費を削るために日に何回かしか出ていないらしい。僕らが馬車の乗り場に行った時には既に今日の馬車はでていた。
「アミュさん!僕がお守りします。何があってもこの手で倒しますから」
アミュはニコリと微笑むと、僕の頭を撫でた。
「よしよし。私もドラコと一緒に居られてうれしいよ」
んー。やはり伝わってない。だけど、気持ちだけは伝わったはずだから……、そういう事にしておこう。この前の蜂みたいにどんな敵が来ても倒してやるぜ。僕は手をにぎにぎしながらアミュを見つめていた。
「ふーん。あんたって意外と男らしいところあるじゃない。期待はしてないけれど、アミュさんの護衛は頼んだわよ」
チラリと僕を真顔で見つめるリリィ(神楽坂)。即座に、アミュの方向におへそを向けると、にこやかな笑顔でアミュに抱き着いた。
「私も楽しいです。一緒に、しかも二人っきりでデート……、ゴホン、お仕事(クエスト)に行けるなんて。リリィ感激ですぅ~」
両手を顔の頬に当てながら、心なしか頬っぺたが赤く染まっている。はれんちめ、許さねぇぞ。少しは自重しやがれってんだよ。
じりじりと僕は「がるる」と言いながらリリィに近づくと、リリィも気づいたようだ。リリィは僕と距離を取った。
「もう喧嘩したらダメじゃない。メ。ぷんぷん」
アミュが僕らの間合いに入ってきた。頬を膨らませながら、くびれに手を置いている。
あなたのために僕らは喧嘩しているんですよ。少し黙っててください。負けるわけがありません。だから、ここは名誉のためにもやらせてください。
僕はじりじりとリリィとの間合いに詰め寄る。リリィも手を構える。いざ、勝負!
僕はジャンプした瞬間、くびれを掴まれて、宙に浮いた。
「え?何があったの?」
きょろきょろと見渡しながら、突然何が起こったのかが分からなくなった。だけど、リリィの顔は口をポカーンと開けている。僕は後ろを見ると、アミュが隣にいた。僕のくびれを掴んで。
「もう!ダメでしょう。仲間と喧嘩しちゃあ。お仕事の邪魔しちゃ、メ、だよ。ドラコ」
膨れている頬、顔や耳まで赤くなっている姿のアミュさんが見えた。怒っている顔をしているのだけど、愛らしい。一言、可愛いと心の中で思ったわけで。
不思議とニヤニヤと笑みが浮かんできた。こんな姿見れるのはやはり、一緒にクエストに参加したからこそだろう。やはり好きな人と一緒に行動するのは素晴らしい。
「もう、なににやついているのよ。私は怒っているのよ。次喧嘩したら、おやつ抜きよ」
おやつ抜きかー。それは嫌だな……。愛おしい姿を見るのも良かったけれど、ほどほどにするか。
僕は頬をポリポリと掻いて、反省している雰囲気を出すために、うつむいた。
「分かればよろしい。もう喧嘩するんじゃないんだからね」
アミュは僕の頬をいきなり両手で触ってきた。リリィが「な」っと渋い表情をしたのが見えた。
「あ、あ……、はい。気を付けます……」
アミュからようやく解放された僕は、顔が真っ赤になっているのが、手に取るように分かる。パタパタと手であおぎながら、僕自身気持ちを整える。
「ま、魔性の女だぜ、まったく」
口から出るよだれを手で拭うと、リリィと目線があった。リリィはプイっと顔を避けると、
「アミュさんが居る時は休戦だよ。次は絶対に勝つんだからね」
僕にしか聞こえない声量でボソリとつぶやいた。
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