第32話「拝啓、体力の限界」
太陽が頭を照らし、身体中から汗がしたたり落ちる。僕は腕で顔をぬぐった。
アミュとリリィは汗は掻いているものの、疲れている様子は見えない。
「あいつら意外と体力あるじゃないかよ」
アミュさんはともかく、リリィがいまだ元気なのは予想外だったぜ。
アミュとリリィが会話している中をジッと見ながら、一歩一歩歩く。次第にリリィの太ももあたりの下半身が震えているのが見えた。
「ん?あいつ、無理してやがる!」
大丈夫なのだろうか。楽しげに話しているし、無駄な心配だろう。えらくなったら休憩に入るだろうし、ほっとくか。アミュさんならともかく、リリィだしな。
次第に平地から、足場が悪い、森林に入った。道も整理させていなかったし、ここは人があんまり通らないのだろうか。
アミュが一番前を歩き、真ん中にリリィ、最後に僕が歩く形で進んでいる。
「ここを越えたら、もうすぐ山よ。しんどいと思うけど頑張りましょう。山が見えだしたら一旦休憩しましょう」
アミュさんは後ろの僕とリリィの顔を見ながら、言った。よーし。頑張るか。お腹もすいてきたし、早くアミュさんのごはんが食べたい。
足取りが次第に軽くなる、さっきまでの歩くスピードよりも早足で歩く。しかし、見渡す限り森、木が覆われていて、いつ森から抜け出せられるのか分からなくなってくる。
僕はちらりと二人を見た。アミュさんは息を「はあはあ」と吐きながらも懸命に足場を作りながら歩いている。
リリィは自分の持っている杖に体重をかけながら、足をガクガクとしている。大丈夫なのだろうか。体力一番ねえじゃねーかよ、とツッコミたくもなる。
それから、僕らは太陽の日が越えるまで歩いた。森を抜け出し、山についた頃には夕焼け色に染まる太陽を見ることになっていた。
「ハアハア、よ、ようやくついた。どれだけ距離があるんだよ。この森」
僕はそう言いながら、顔の汗を手で拭いた。拭いた瞬間、バタンと倒れる音が聞こえる。
リリィだ。体力の限界が来たようだった。もうすでに、気を失ってやがる。
アミュは仁王立ちで、リリィの顔を見つめる。
「仕方ないわね。まあ距離もあったし、疲れるのにもわかるわ。ここでキャンプでもしましょう」
岩場に道具を置くと、アミュはリリィを看護している。膝枕をしながら頭を撫でてやがる。何て羨ましいんだ。けしからん。だけど、気が失っている彼女を見ると今回は目をそらした。
「次はないからな……」
僕は頬を膨らませながら、プイと顔を横に向いた。この世界に来た僕を重ね合わせてしまったのだろうか、ため息が出る。仕方がないので、ぺたんと座り込んだ。
すると、僕のお腹からギュッとなる。空腹からなのか、気持ち悪さもあった。
お腹を摩りながら、アミュの方に近づく。アミュはニコリと笑みを浮かべ、
「お腹空いたのね。はい、お弁当。温かくないけど、味は自信あるの。はい、お食べ」
「ありがとうございます。いつの間に作っていたんですか?お弁当なんて」
「ん?どうしたの?もしかして食べたくないの……」
アミュはしゅんと顔を下にうつむいた。僕は顔を横に振りながら、大振りで手を振る。
「そ、そんなつもりは……。ああ、やはり言葉が伝わらないのはつらい……」
頭を抱えてしまう。僕自身の本音が伝わらない。なぜか逆の意味に伝わってしまう。今後の課題かな。僕は茫然と立ち尽くすしかなかった。
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