第30話「拝啓、いざ出発」

「準備出来たわよ。それじゃ出発しましょう」

 アミュは二人に向かって、パンと掌で音を立てて合図をする。音と同時に僕らはアミュの方向に身体を向ける。

 僕はアミュに子供服だろうか、山に行くので寒くなるからと着さされていた。

 ただ人間の時は裸の方が抵抗があった。だけど、今は身体の鱗と服が擦れてこそばゆい。僕は変質者になってしまったのだろうか。早く脱ぎたい。

 着さされている服に違和感を感じながら、服の上から身体を揺らす。こそばゆさが増したようだ。どうしよう。目を逸らした時に脱いでたら怒られるかな。僕の頭の中で葛藤が起こるぜ。まったくよ。

 ため息を吐きながら、頭を僕は掻いた。

「似合ってるじゃない。プププ、か、可愛いわよ、フフ」

 リリィ及び、神楽坂は口に手を置いて、鼻で笑っている。なんだよ。こっちは息苦しくてたまったもんじゃないんだぞ。

「うっさいわい。こっちは大変なんだぞ。こそばゆいし、ドラゴンに服は着させたらダメだろう。動物虐待ならぬドラゴン虐待だ!」

「ふーん。口ではそう言っている割に、脱ぐ感じは見せないじゃない。プププ、案外気に入ってるんじゃないの?」

 僕は「チィ」と舌打ちをリリィに向けて、ゆっくりと家の扉を出た。


 ちなみに、僕が着ている服はというと、赤い無地半袖Tシャツの簡単な物だった。ズボンも用意してもらっていたみたいだったのだけど、尻尾が邪魔して上手く穿けなかった。

「やはり、違和感しかないな。人間の時はそんな事感じたことなかったけれど……」

「ふぅ」とため息交じりの、息を吐く。僕自身、アミュさんの為に我慢することに決めた。


 アミュの家から出た三人は、蜂が居たギルドのあった街に着いた。

「ここを通り過ぎて、少し森を超えたところに薬草の生えている山はあるようですね」

 リリィはアミュに依頼書を見ながら言う。アミュも横から依頼書を見る。

「そうね、まだ少し歩かないといけないわね。この距離だと一泊しないといけないのよね」

 アミュは顔に手を置くと、ため息を「はー」と吐いた。

「え?一泊?そんなに遠いの?」

 驚きのあまり、声を出してしまった。アミュさんには鳴き声でしか聞こえてないのだけど。

 確かに、アミュさんはリュックみたいな鞄を抱えている。まさかそんなに遠いところにあるとは。だけど、今回は一人ではない。頼りになる仲間は二人いる。一人(神楽坂)は微妙なところだが、それは心の中にしまっておこう。ここで死ぬリスクは少ないと僕は思うね。今更ながら、連れて行ってもらって良かった。一人で脱走して、蜂の時みたいに向かっていたら、一生戻ってこれない気がした。今は頼れる仲間を信じよう。


「私はアミュさんが居るので全然かまいませんけどね。むしろウエルカムです!」

 リリィは手を上にあげて、ジャンプをしながらアミュに言う。気分が高揚しているみたいだ。

「ふふ、そう言ってもらえるのなら嬉しいわ。さて、この街によっている場合じゃないし、まずは山を目指して向かいましょうか」

 アミュはパンと掌で音を立てた。僕らは「はーい」とだけ返事を返した(僕の場合は鳴き声になるけれど)。

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