第三章「拝啓、日常に潜む敵」

第24話「拝啓、抱き着いていいかな?いいよね」

 そっとドアノブをジャンプして開けると、キィーと音を立てながらドアが開く。いつも思うのだけど、この世界の防犯システムはどうなっているのだろうか。アミュさんが鈍感なだけなのだろうか。もうドラクエやポケモン並みの世界感だなもう。

 ゆっくりとベットに入ろうと息を殺しながら、布団に入る。よし、バレていないはず。僕の潜入は完璧だ。

 アミュさんの寝顔を見て安心感を得るためにも、僕はもぞもぞと布団から顔を出した。


 顔を出したらなぜだろう、アミュさんと完全に目が合ってしまった。ジッとアミュさんがこっちを見てくる。

「こらー。ドラコまた一人でどっか行ってたでしょう。ここらは危ないんだからね」

 布団に顔だけを出しながら、ジッと僕を見つめる。僕は耐えられず目を逸らした。すると、両手で僕の頬を触り、強制的に僕の顔とアミュさんの顔が合う。

「こ、これには、事情があって……、ああ、ごめんなさい」

 顔や耳が真っ赤になっている僕が居る。いまだに僕の頬に触ってくるアミュさんの手の肌の温かさを直に感じて、胸が張り裂けそうだ。僕じゃなくてもドキドキするだろう。

 ただ、悪い事なんて何もしていないのに謝ってしまう。それにこれ以上触られたら理性を失ってしまいかねない。

「もう、勝手に出ちゃだめだからね。メっ!」

 アミュは頬から手を離し、その手で僕の頭をポンポンとしながら、優しい口調で言った。

 もう僕のハートはあなたのモノです。抱き着いていいのかな。いいよね。僕はドキドキしながら、アミュさんに突っ込む三秒前。それと同時に、玄関のドアからノックの音が聞こえてくる。


「はーい、ちょっと待ってね。あ、ドラコ、少し待っててね」

 ああ、行っちまった。くそ、良いところで、こんな朝早くから誰だよ。まったくよ。

 ドアを開けると、魔法使いのカッコをした女性が立っていた。

「はあはあ、お、おはようございます。アミュ姉さま。今日もクエスト行きましょう。はあはあ」

 神楽坂の姿ではなく、リリィの姿でドアの目の前で立っていた。額に汗をかき、息切れをしている。手を膝に置きながら、プルプルと足が震えている。上目遣いでアミュを見て居たが、まるでチワワみたいな目をしていた。

「あ、こいつ、さっき別れたばかりなのになんで来たんだよ」

 僕は思わず声に出てしまった。アミュは顔を斜めに傾けて頭にハテナマークを浮かべている。神楽坂のやろう無視しやがった。おいこいつ。聞こえているくせに返事しろ。


「アミュさーん。いいでしょう。今回のクエストもう取ってきてるんですよー。今回のは洞窟探索。簡単です。行きましょうよ。ねえいいでしょう?」

 アミュの右腕を取り、リリィは顔をマーキングするかのようにすりすりと擦りつける。おい、アミュさんに汗がつくだろう、すりつけるな。

 アミュの方はため息を一つ吐き、頬に左手の掌を当てる。

「もう、いきなりなんだから。別にいいわよ。どうせ今日もクエストに行く予定だったし」


「アミュさん、大好き。嬉しいです。お願い聞いてくれて、や・さ・し・い」

 再度、リリィは顔の頬をアミュの左腕に擦りつける。相変わらずの愛情表現に僕は見かねて、リリィの太ももをカプリ噛んだ。

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