第21話「拝啓、ドラゴン語の真実」
「あ~あ、変身解けちゃった。だから夜はダメね。あ、そうそう、もちろん、あなたの言葉は理解していたわよ。周りには全然伝わってないようだけどね」
神楽坂は口に手を当てながら、「プークスクス」と笑う。
「笑うなよ。まさか、ドラゴン語が伝わらないなんて知らなかったんだから。普通に日本語で喋っている感覚だったんだよ」
僕は腕組をしながら、神楽坂をジトーという目で見つめる。こいつはおちょくりに来ただけなのだろうか。何もかもふざけてる感じしか見えない。
ただ、僕の内心とは裏腹に、バカにするようなにやけ顔から、次第に可哀そうなものを見るかのように僕を見つめだした。
「ドラゴン語?……、ああ、その鳴き声みたいなのがドラゴン語なの?人間からしたら、『うー』『あー』『がおー』ってしか聞こえてないはずよ。まあ私はこの姿だし、悲鳴でも何を言っているのかわかるのだけどね」
衝撃の事実である。僕からしたら、日本語を喋っている感覚だったのだけど、鳴き声だけじゃ意思疎通が出来るわけもない。いや待てよ。前世の実家で飼っていた猫は「にゃー」と鳴いて餌かとわかったし、もしかしたらチャンスはあるかもしれない。いやこの状況は、同じじゃないか。
僕はますます、頭を抱えるしかなかった。考えるほど、絶望はやってくる気しかない。
頭を抱えながら、下を見つめる僕に、神楽坂はそっと近づいた。尻尾をふりふりとしながら、上目遣いの目で僕を見て、
「そこで提案なんだけど、私の願いはアミュさんの家、屋上を私の住処にしたいのだけど、手伝ってほしいの」
「却下、断る」
「なんで即答なのよ。意味分からない」
神楽坂は頬を膨らませながら、僕の目を見ながら、何かを訴えてくる。
そんな顔してもダメなものはダメだろう。何をバカなことを言っている。屋上で住むだと、それじゃ僕の快適なアミュさんとの同棲生活はどうなるんだよ。なんで他人が入ってこないといけない。それに不法侵入だろ。
「意味が分からないのはこっちの方だよ。そんな事、アミュさん本人に許可を取ればいいだろう。まして天井に住まわせてくれだなんて、何するつもりだよ」
「そんなの当たり前のことを聞かないでよ。監視よ、アミュさんの監視。今まで夜はこの姿でずっと監視してたんだからね」
ドヤ顔できっぱりと言いやがった。こいつはストーカーか何かの部類だろうか。危機感が僕の中でドクンドクンと鳴り響いている。
「そんな事しないでさっさと家に帰れよ。暇人、まるでストーカーじゃねーかよ」
僕は腕組をしながら、ぷいと顔を横に向けた。神楽坂はウルウルと涙目になっていく。
あれ?言い過ぎたかと不安になってくる。女ってそういうものなのだろうか?少し間があってから、神楽坂は口を開けた。
「……あんたは知らないと思うけれど、ここに来て半年間、ずっとこの地で野宿してるのよ。この身体のせいで……」
神楽坂は、涙目から次第に、顔を下にうつむき、一つため息を吐いた。
「夜になると。魔力は落ちて、この姿に戻っちゃうのよ。ホント嫌になっちゃうわ。そのせいで宿舎に置いてある対魔物用防止柵に引っかかるし、一週間前なんてその罠に捕まって仲間に殺されかけたんだからね」
「……そうなのか。大変だったな。そりゃ」
神楽坂にかけるフォローが見つからない。何かを言えば、問題ごとを押し付けられそうだし、面倒ごとはもうたくさんだぜ。目の前でため息を吐いてやろうか。
それにしても、この世界には魔力というものが存在していたことに驚きだった。僕はつい「ほー」と感心してしまう。教えてくれる人もいないしな(アミュさんは脳筋っぽいしな)。
「あれもこれも、この世界に送り出した、女神のせいだわ」
僕は首をかしげながらも、嫌な予感が頭によぎる。あれ、これって?
神楽坂は右手を拳にして、ギュッと握る。歯をきりきりとしながら、
「ただ、この姿にした銀髪の女神には許さないわ。なんで魔法使いを頼んだのに、ロリっこ狐なのよ。こんな姿じゃ、恥ずかしくて人前にも出られないじゃない。それにかわいい子いっぱい居るって転生したのに、人間の女には出会う機会なんかないじゃない。せめて、動物じゃなくて人間にして欲しかったわよ。今度会ったら、文句言ってやるわ」
銀髪の女神……、妹のアスナの事のような気がする。ここでは言わないほうが得策かも知らない。
そう神楽坂の口から聞かされる言葉に知らないふりをしながら、僕は「ふーん」とだけうなずいていた。
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