第19話「拝啓、ちゃんと喋りなさい。バカ」
僕は再び、アミュさんを起こさないように、ゆっくりと上半身だけ布団から出て、起こさないように小さく喋る。
「え?さっき、お前は誰だ?と言っただろ。脳内で」
『脳内じゃ分からないわよ。ちゃんと喋りなさい。バカ』
バカと、言われた……。前世でも、部長にしか言われたことないのに。だけど、脳内会話(テレパシー)ができないのは困ったぞ。布団の中で喋っているとアミュさんを起こしかねないし。まだ僕自身、この布団の中に居たいし、本当に邪魔な客人だぜ、まったく。
「で、何の用だよ。僕と会話出来るってんだから、ただの客人ではないな。まして、人間じゃないだろ」
僕はそう言いながら、ため息を吐いた。なんだ、この世界は面倒ごとと隣り合わせなのかよ。
『その要件は、今、となりに居るアミュさんが居るから言えない……、だから、ここから出て、外で会話しましょう』
「やだよ。なんでこんな見知らぬ声の持ち主と会話しなくちゃいけないんだよ。僕は今、天国、もとい素晴らしい芸術が目の前にあるんだよ。だから、この部屋から出たくない」
僕はそう述べると、アミュさんの眠っている布団に再び潜った。だって、なんで今更こんな真夜中に外に出なくちゃいけない。それに危険を冒してまで、この安全地帯から出る必要なんてないね。
『ふーんだ。それじゃあんたがそのつもりなら、こっちには考えがあるんだからね』
脳内で語りかける声の持ち主の大きく息を吸う音が聞こえてくる。
僕は飛び起きて、額に汗を一滴落とした。そして、背中がぞくりと寒気を感じて嫌な予感を感じた。
「おい、待て、少し話せばわか……」
脳内に響き渡る、ハデスの吐息を感じさせるようなハスキーな声だった。いや、この世にはない、歪なメロディーが脳内に流れる。僕は即座に頭を抱えた。瞬時に、話を聞いておいたほうが良かったと後悔もした。
僕はアミュさんが起きないように布団から出て、床で悶えた。ギンギンと頭痛がする。何て奴なんだ。一体、僕は何をしたというのだろうか。
ようやく、声の持ち主の気分が落ち着いたのか、歌うのを止めたみたいだ。僕は手で頭を押さえながら、弱弱しく声を出す。
「い、一体何が目的だ。外になら出てやるから、歌うのは止めろ」
僕はベットから、アミュさんを起こさないようにゆっくりと(渋々)出る。玄関のところに向かい、ドアノブのところにジャンプする。するとドアがゆっくりと開いて、外に出たと同時にドアをゆっくり閉めた。
「おい、これでいいんだろ?お前の要望通り、僕は外に出たぞ。姿を現せよ」
膨大なリスクをこっちが負ったんだ。これでいたずら、出てこなかったら、ただじゃおかないぞ。
腕組をしながら、鼻息を立てながら、周囲を見渡す。だけど、誰かが居る気配がない。
「まさか、今まで話していたのは幽霊だったのか。もしや僕が疲れていただけなのか?」
思いっきり、目をギュッとつぶる。ゆっくりとまぶたを開けると、目の前には、一人、いや、一匹の狐もどきが二息歩行で腕組をしながら立っていた。
ただ、顔立ちは一人の背の小さく、幼い少女だ。整っていて、頭には狐の耳がちょこんとあり、可愛い。黒のおかっぱ頭で、短いなりに、サラサラとしている。後ろのお尻付近には三本の狐の尻尾が生えていた。狐というか、お狐様だなこれは。背たけは、僕とそんなに変わらなかった。
だけど、たまたまかもしれないが、服は朝、昼頃のあったあの魔法使いのような紺色のフードを着ていた。
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