第15話「拝啓、まさかの百合展開?」

「だけど、ドラゴンを飼ってるアミュさんって素敵。凛々しいです」

 リリィはアミュに突然、抱き着いてきた。その姿に尊いという感情と共に、こいつもしや……と言う感情が僕の脳内で渦巻きあった。


「リリィ!、突然何するのよ。あ、私のおっぱい揉まないで」

 困惑するアミュ、エロ顔をしながらニヤニヤっと笑みを浮かべるリリィ。僕の視線に感じたのかリリィは僕をチラリと見てくる。あごを上げてニヤリとドヤ顔で。


「おい!こいつ確信犯だろう。おい、こいつを捕まえろ。現行犯逮捕だ」

 僕は手の人差し指をリリィに向けて、睨みつけて言った。だけど。リリィは首を傾げながら「ふーん」とだけ言い、引き続けてアミュを抱き着いていた。


「いいじゃないですか?後輩のスキンシップですよー。お仕事も終わりましたし、甘えさせてくださいよ。せ・ん・ぱ・い、リリィ寂しいですぅー」

 リリィはアミュの腕をプニプニしながら、にこやかな笑みを見せながら言った。まるで目がとろけているようだった。


「もう、そんな馬鹿なことやってないで、さ、行くよ。もう外の煙もはれたみたいだし、終わったはずだから」

「ちぇ、アミュさんのいけずぅ~」

 アミュは上半身に着ている肌着をパンパンと叩いた。そして、鎧をつけなおす。リリィは床に落ちていた帽子を被り杖を持った。

 僕はアミュさんの後ろで一息吐いた。少し、ホッとした。ガチ百合展開にならなくて良かったと心の中で思った。そして、こいつは敵だと頭で認識してしまった。


_________



「よしよし、お前さんのおかげで助かったよ。ありがとよ」

 僕の頭をごしごしと撫でるのは、剣士のヤマト。そして腕組をしながら「うんうん」とうなずいているのが、サポート役のパセリ。


「こいつが居なかったら、あのままアミュもやられて、大群で蜂どもが集まってきて、今頃全滅してたかもな」

 さらっと怖いことを言う。だけど、パセリの言う通りだろう。一つ間違えればすべてが終わる。この世界、環境は弱肉強食に近いのだろう。前世の地球、日本とは違い、ここは生きるために必死だ。僕も来た時にいきなり殺されかけたし……。


 ただ、いまだに撫で続けているヤマトに、僕はヤマトの手をはねのけた。いつまで触ってやがる、僕を触っていいのはアミュさんだけだ。

 すると、聞き慣れない声が聞こえてくる。

「ご注文はどうなされますか?」

 ウエイトレス風の若い女性が話しかけてきた。

 そうここは街の中のギルドが運営しているレストランの中だ。別荘チックな店内。50人程居座れる大きなフロアで、天井にはいくつもの木材のシーリングファンがゆっくりと動いている。ゆったりとした雰囲気で窓から外の風は入ってきて気持ちがいい。6人程の丸机がフロア内に何個か配置されている。その1個の丸机に僕達は集まっていた。

 アミュ達はいつもクエストが終わると、ここに集合するルールになっているらしい。ってヤマトが口でかでかに言ってただけだけどな。


 僕はテーブルの下から、ひょっこと顔を出した。アミュの顔をじっと見ていると、それに気づいたアミュは、

「ちょっと待っててね。ドラコ。今から美味しい物注文してあげるから」

 ニコリと笑みを浮かべて、微笑んだ。そして僕の頭を撫でてくれた。まるで天使だ。この笑顔が見たかったんだ。もう少し見せてくれないか。そう直訴したい。すると近くから視線か感じる。何か邪悪な気配だ。

 

 リリィが僕をジッと見つめながら、歯をきりきりとさせている。

「アミュさんズルいです。このドラゴンばっかり優しくして。私にも頭を撫でてください」

 何を言っている。この小娘は。なめた口を叩いているんじゃねーぞ。


「おいおい、またか、懲りねーな。リリィはよ」

 両手の掌を上にあげて、呆れた顔をしたのはヤマトだった。パセリの方はいたって気にしていない様子だ。


「なによ。あんたは黙っててよ。私はアミュさんとお話したいのよ」


「おいおい、俺も先輩だぞ、敬語ぐらい使えよな」


「はー。なんであんたなんかに使わないといけないのよ。脳筋バカ」

 ヤマトは机を手で叩き、バタンと言う音が周辺に響き渡る。


「あ、やんのか、小娘が」


「やめなさい。あんたたち」

 アミュがヤマトより大きな音で、机を叩く。二人はビクリと驚き、姿勢を正す。


「「はい、すいませんでした」」


「まったく、ウエイトレスさんが困っているでしょうに。早く選びましょう」

 ウエイトレスさんは、「ははは」と苦笑いをしている。

 ただ、僕は見ていましたよアミュさん。まるで凛々しく、周りを仕切っているリーダーのような存在だったのを。

 僕は手を両手で握りながら、アミュさんを尊敬の眼差しで、瞳を輝かしながら見つめていた。


「なに?ドラコ?よしよし、そんなにおやつが食べたいの?ちょっと待っててね」

相変わらず、僕の意志は伝わってないようだけど、今は一緒に居られるだけで幸せだ。


「それじゃ、俺はタコやーきで」


「俺も同じで、タコやーき」


「あんたたち、あんなの美味しいの?あ、私は、ドーナッツセットで」

 名称は前世でも聞いた事のあるものばかりだった。メニューを見ても、カリーセットとかビーィルとか商品が想像できそうなものばかりだった。実際にどんな物なのか気になるところである。

 アミュさんは何を頼むのだろうか。ちょっと待っててねと言ってたのだし、ここも期待してもいいのかな。


「それじゃ、ウエイトレスさん、いつもので。それとは別に、いつもの小サイズでお願いするわ」


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

 ウエイトレスさんはそう僕らに言い残すと、店内の奥へ隠れていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る