第16話「拝啓、特別な料理」

 いつもの?メニュにはそんなものはなかった。なんの料理だろうか。目の前にオープンになっているメニュに再度見渡した。

 けれど僕はアミュさんを信じてますよ。なんせ、朝ご飯のパンは美味しかったんだから。一生ついていきます。


 ウエイトレスさんが順々と頼んでいた品を持ってくる。

「ようやく来たのか、ああ、お腹空いたぜ」


「ああ、ここのドーナッツ甘くておいしいのよね」


「アミュさん、お先いただきます」


 三人は手を合わせてから、テーブルに置いてある品を口に運ぶ。見る見るうちに幸せそうな顔になっている。とっても美味しいのだろう。クンクンと匂いを嗅いでもおいしそうだ。

 ただ、品に関して見た感じ、前世で見たものとはあまり変わりのなかった感じだった。味は食べてないから味は分からないけどな。


 タコやーきを食べているヤマトが口をもぐもぐしながら、アミュに話かける。

「今回も例のアレ頼んだんですか?見ているだけで胸焼けしそうになるやつ」


「?そうかしら?、私は美味しいと思うわよ」

 アミュは首を傾げながら、真顔でヤマトの目を不思議そうに見つめる。


 今のは聞かなかったことにしよう。ただ、ヤマトって男が貧弱なだけの事だ。その証拠に他の二人はその話題には乗っかっていない。ふん、焦らせやがって、大天使アミュさんだぞ。お前らとは違うんだ。

 僕は鼻で笑いながら、ヤマトを見た。腕組をしながらアミュが頼んだ料理を待っていると、さっき運んでもらったウエイトレスさんとは違い、大柄のウエイトレスが例の品を運んできた。それもガスマスクをした姿で登場しやがった。


 大柄な男は、ガスマスクのシュー、シュコーと言う音を鳴らしながら、言った。

「お待たせいたしました。いつもの……、とぅうがらしの煮込みにです。ゴホン、ゴホン」


 大きいほうをアミュさんが小さいお皿を僕の目の前に置いた。ただ、クンクンと匂いを嗅いだら、目が痛くなってきた。涙目になりながらも、目の前のお皿を見る。

 周辺がマグマのように、グツグツと真っ赤になっていて、中にはモツ、キノコ、白菜と言った肉と野菜が混ぜられていた。だけど、真ん中にぽつんと存在感を醸し出している唐辛子っぽいものには目を避けてしまう。


「アミュさん、なんですか?これ?前世でも食べたことないんですけど」

 涙目になりながら、分かってくれとばかりに抵抗する。だけど、アミュは僕の頭を撫でて、

「涙目になりながらも喜んでくれるなんて嬉しい。さあお食べ」

 アミュは絡ませた両手を顔に近づけながら、ニコリと微笑んだ。この時ばかりは、悪魔のような天使の笑顔だった。


 僕はゴクリと目の前の料理を見た。隣に居るアミュさんの笑顔がプレッシャーをかけてくる。

 まさかこんな裏切りがあったなんて、僕はテーブルに顎を置きながら手で目を隠した。

だけど、ここで食べなかったら、アミュさんは悲しんでしまう。それは男としてやってはいけない。たけど、僕の本能がこれは食べたらいけないと語り掛けてくる。次第に額から汗が出てきて、手汗もびっちょりだ。


 ヤマトの方向を見る。僕を見てらんないのかうつむいている。他の二人はどうだろうか。 パセリの方は窓の方向を見ながら、遠い目をしている。まさに目の前にある品を見ないかのように。

 リリィの方は、アミュさんを見ながらニコリとしているが、薄っすらと開いている目が真黒く死んでいる……。


 いや、もしかしたら僕の食べず嫌いなだけかもしれない。それに今はドラゴン。味覚も辛さには強くなっているだろう。

 アミュさんの方向をチラリと見る。もうすでに食べているようだ。

「うぅん。口の中から広がる針が刺してくる痛み、素晴らしい。ああ、感じる……」

 アミュは食べた瞬間に、ポニーテールの金髪がブルりと揺れる。手で自分自身を抱きながら、幸福そうな笑顔を見せていた。

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