第14話「拝啓、ドラゴンと人間の差」
近くにあった民家に入った。窓から見える限り、大量の白い煙が周囲を囲む。殺虫剤的な役割だろうか。本格的な虫よけが始まったみたいだ。
僕はアミュさんを見た。今回は助けたんだ。褒められるに違いない、ご褒美に頭を撫でて褒められることを嘱望(しょくぼう)しよう。
しかし、僕の期待とは裏腹に、頬っぺたから大きな音が聞こえてきた。次第に、じんじんと痛みが感じてきて、気が付くと僕は横に転がっていた。
「い、痛いぃぃぃぃぃぃぃい、なんつ、バカ力だよってえ?アミュさん、何を?」
頭の理解が追い付いていない。なぜアミュさんにぶたれないといけない。僕は危機から助けた、勇敢なる男なのだぞ。
「なんで、なんでですか、なぜ、僕をぶったのですか?」
「そんな悲しそうな声を出してもダメ。ドラコ、あなたは私の言いつけを破ったのよ」
アミュは仁王立ちをしながら、僕を下目で見降ろしていた。朝見た天使みたいな雰囲気は今はなく、まるで氷の女王みたいな別人になったいた。
「あ、アミュさん、怖いですよ、顔が……」
「お黙りなさい。私は怒っているんですよ。こんな幼いドラコが危険な目に遭ってたら、私は哀しいです」
「アミュ……、アミュさん。そんなに僕のことを思って……」
なんだか目から涙が出そうだ。なんていい人なんだ、やっぱり天使だった。だろうじゃない、天使に違いない。
僕はアミュさんの足に近づき、抱き着いた。もし僕が人間だったのであれば、まるで情けない男が凛々しくも可憐な女性の足に抱き着き、泣きじゃくっているシーンなわけで。
「ごめんなさい、もうアミュさんを傷つけることはしないから、僕を、僕を、見捨てないで」
今は幼いドラゴン、大の大人じゃない。ってことにしておこう。(精神は人間の時と同じだと思うけれど)
「分かればいいのよ、ドラコ、分かれば」
アミュはしゃがみ、僕と同じ目線まで背を落として、頭を撫でた。続けて、
「よしよし、次は危険なことしちゃだめよ、メ、だからね」
まるで幼稚園児をなだめるように、優しい笑みを見せる。ただ、そんな天使な一面を見せてくれるアミュさんがたまらなく、ドキドキとしてしまった。
「へー。アミュさんってドラゴン飼い始めたんですか?」
黒いフードを被っていた魔法使いのリリィがアミュに向けて聞いてきた。僕達の話を終始聞いていたのだろうか、目がキラキラとしている。
「うん、最近、家の近くで拾ってね。かわいいんだ、このクリっとした目に、ドラゴンなのに小さい身体、まるでお人形さんみたいだよ。毎日抱いて寝ているわ」
僕はポリポリと頬を掻く、少し耳が赤くなってしまった。ただ、直接目の前で褒められるのは悪い気はしないものだ。前世はそんな機会があまりなかっただけあって、恥ずかしくなってくる。
「抱いて寝ているんだ……。あ、だけどこの子オスみたいですよ」
リリィがいきなり、僕を抱いてお腹を見てそう言った。
「……ふぅにゃ」
いきなりだったから、変な声が出てしまった。この魔法使い、もしかして痴女なのだろうか。僕の身体を勝手に触って、変態なのか?大声にして言ってやりたい。
「まあ、人間じゃないし、ドラゴンだし、大丈夫かなって思って。襲ってはこないでしょう」
アミュは手でポニーテールにしている後ろ髪を軽く触る。ドラコを見つめながら、安心した目で言う。リリィは少しばかり頬を赤く染めている。
「……、それって僕に気がないってことですかい」
僕は聞こえていないだろう、台詞を口にしながら、四詰んばになる。ううぅ哀しい、この世界に来てから、一番悲しいかもしれない。なんだか涙が出てきそうだ。
涙目になっている僕を見ながら、アミュは察したのか、
「ん?お腹でも空いたの?でも少し待ってね。お仕事(クエスト)が終われば、何か買ってあげるから」
顔を見上げるとアミュさんの顔が見える。優しそうな瞳、ニコリとした笑み。頭を撫でてくる。
こんな哀しいことはない。本人の目の前で気がない宣言とか、気が滅入る。くそ、これが人間とドラゴンの差なのか。
僕は深いため息を吐いた。ただ、この二人にはため息には見えないかもしれない。ただの息切れをしているかのように見えたのかもしれない。
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