第13話「拝啓、とっさに取った勇敢な行動」

「やったな、アミュ、初心者殺しに遂に勝ったな」

「やったわね。初心者殺しに勝ったから、報酬もいいはずよ」

「ふん、俺の薬物のおかげだけどな。たけど助かったよ、ありがとう」


 アミュは照れくさそうに、ポニーテールの髪を一撫でした。そして。全員とハイタッチを交わし、にこやかな笑みを出す。

 表情は安心しきった顔そのものだった。聞き耳を立てて聞いていた会話からしても強い敵なのだろう。そりゃそんな気分にもなるはずだ。

 アミュ達は、家の日陰に行く。そして、アミュは上半身だけ鎧を除けた。周りをチラリと見回しながら、「うーん」と背伸びをする。

 なお、僕は気分が上がっている。何てエロイんだ。おっぱいが強調されている。他の冒険者たちもアミュの釘付けだった。


「くそ、あの男どもなにアミュさんを見てるんだよ。体当たりしてやろうか。ん?あの魔法使いの女、アミュさんを見ながら、よだれ垂らしてやがる……。この世界にはまともな奴はいないのか」

 ブーメランが返ってきそうな発言は気にしないでおこう。それより、もう僕は出ていいのかな?

 僕は様子をうかがいながら、周りをきょろきょろと見回した。すると、さっき居た蜂がアミュに向かって行く。約一匹。だけど、針が鋭く一直線で向かってくる。


「待て待て、これってヤバいんじゃないのかよ」

 僕はとっさに、森の物陰から飛び出した。目の前のアミュさんしか見えてなかったのは確かだった。頭によぎったのは「怒られる」その一言だった。だけど、今はそれどころじゃない。蜂の毒ってどの世界でも危ないモノだろう。もしもアミュさんに何かあれば僕は耐えきれない。ギュッと僕の胸が痛くなる。アミュさんが助かるのならば、僕はいくらでも怒られよう。


 近くにあった薬品が入ってあった紙袋を数枚持つと。とっさに折り畳み、アミュが気付く直前で、僕は紙袋で蜂をパタンと叩いた。

「え?ドラコ?なんでこんなところに……」


 蜂をはたいた瞬間、アミュと目があった。

 アミュの言葉をいったんスルーして、叩いた蜂を見た。蜂はピクピクと身体をけいれんさせながら、地面に横たわっていた。

アミュは驚いたのだろうか、ぺたんと腰を地面に下ろして、目をぱちくりとしていた。僕はというと、未だに心臓がドキドキとしている。

 本当に敵を倒したのだろうか。僕にとってこの世界で初めての体験。心なしか、力がみなぎる感じがした。


 サポート役の一人が、薬品を持って、こっちに向かってくる。

「リリィはアミュと目の前に動物の保護を、ヤマトは二人を守ってやってくれ。俺はこいつを退治する」


 アミュの仲間が駆け寄ってきた。仲間同士で目を見ながら頷いた。女性の魔法使いはアミュの手を持ちながら、安全な家の中に移動する。

 もう一人の剣士は他に蜂が居ないか、きょろきょろと見まわす。そして、サポート役の一人は薬品を蜂に大量に撒く。見るからに可哀そうなぐらい身体がピクピクとなっている。

 僕はアミュさんと一緒に家に向かう途中に、手を蜂に向ける。

「……敵ながらご愁傷様です」

 蜂に生まれ変わらなくって良かったと心からホッとした。

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