第12話「拝啓、匂いの先には」

 一歩一歩、歩きながら、草を踏んでいく。途中、「ギャー」っと音が聞こえてきたが、僕には関係ないことだ。そう思い、気にすることなく森を進んでいく。次第に町みたいなところに出た。


「ここは……、どこだろうか?だけど、アミュさんの匂いがする」

 僕は木と林の物陰に隠れながら、「クンクン」と匂いを嗅ぐ。するとアミュの作ってくれたパンの匂いが、目の前の家の近くからした。


「この家に居るのか。さてどうしよう」

 今更冷静になってきた。なんで僕はここに居るのだろうか?この状況さすがにマズくないだろうか。だって、アミュさんに素直に待ってなさいと言われたばかりに、危険を冒してまで会いに来ているんだぜ。これは愛の力だと言ってしまえば聞こえがいいものの、不幸にもアミュさんは僕の言葉が分からないしな。

 だけど、せっかく来たんだ。アミュさんの顔を見てから、様子をうかがいながら、出るか出ないか考えよう。


 僕は誰かに見られない様に、ゆっくりとのしのしと、出来るだけ足音を出さないように歩き出す。そして、アミュの匂いがしたところの家まで到着した。

 木の物陰や林で姿を隠しながら、ゆっくりと頭を出し、家を見つめる。

 そこには、アミュさんが剣を持ちながら、黄色い物体と戦っているのが見えた。僕はごくりと唾を飲み込み、心の中でツッコミを入れた。

「……、おいおい、こりゃ、どでかいスズメバチじゃねーか。これはむりげーじゃないか」


 冷静に分析するが、原付バイクサイズのスズメバチと数匹の小さい蜂と戦っているのが見えた。


 アミュの方は、一人で戦っているのではなく、仲間っぽい人間が三人ぐらい居た。

 一人目は紺色のフードを被っていて杖から魔法を出している。二人目はアミュと同じく剣士みたいだ。三人目はサポートの人だろうか、薬品を大量に敵に投げたり、解毒剤みたいな液体を仲間に渡している。

 若干ながら、アミュさん達の方が優勢だった。

 僕は、木の物陰から隠れて見ている。敵がデカい割に意外と押しているじゃないか。これは敵を倒してから出たほうがいいんじゃないか。今出ていったら邪魔なだけだし。

 頭をコクコクと頷きながら、アミュさんを見つめる。


 アミュの声が大きく響く。

「ファイナル、ブレイク!」

 アミュの持っている剣が突如、光だし、瞬時に女王蜂らしい原付バイク級の敵に切りかかる。敵は真っ二つに綺麗に切り込まれた。

 その瞬間周りに居た小さな蜂たちはどこかへ去って行った。


「お、さすがアミュさんだ、勝ったみたいだな」

 仲間同士でハイタッチしながら、祝福されているアミュの姿が見えた。


「ああ、僕もハイタッチしたかったな。おめでとうって言いたいな」

 そうアミュの嬉しそうな、にこやかな笑みを浮かべる。僕は木の物陰から、人差し指を口に入れながら、見つめるしかなかった。

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