第6話「拝啓、湖に居た彼女は救世主?、一般人?、それとも痴女?」
僕の目線に気付いたのだろうか、湖にいる彼女は僕を見て、
「へー。こんなところに子ドラゴンなんているんだ。珍しいね。君、名はあるのかい?」
湖に居る彼女は髪をかきあげる。後ろから見える背中ライン、うなじが美しい。彼女は僕の存在に気付いたのだろうか、首だけを動かし、僕の居る方向を見た。
「あ、はい、りゅ……龍太です。この世界ではドラコとも呼ばれてます」
ブラック企業勤務で、長年、女性と絡む機会がなかった弊害だろうか。言葉に噛んでしまった。ああ、恥ずかしい。僕は顔を真っ赤にしながら、「うーん」とうつむいた。
「ふふ、可愛い。龍太くんか~。私のことはリオって呼んでね。君と同じドラゴン族だしさ。この尻尾が証明さ。仲良くしようね」
湖から激しい水しぶきをあげて、太くてどでかい尻尾が出てくる。再び水しぶきをあげて湖の中に隠れていった。
僕はいきなり現れた彼女の尻尾を見つめながら、「おおお」とつぶやきながら、
「はい! 是非お願いします」
有無を言わない速さで言った。僕は餌を待ち望む犬のように、「コクコク」とうなずきながら、尻尾を振る。
「はは、君って面白いね。ドラゴンって不愛想な奴が多いからさ、反応してくれると嬉しいよ。それにこんなに小さいのに、一匹で居るなんてね。ましてボクの言葉を理解してるのには驚きを隠せないよー」
目を薄っすらとつぶり、本当に驚いているのだろうかと疑問に思いながらも、ニコリとした表情をリオは浮かべる。
「だけど、子ドラゴンって言っても、この姿をずっとガン見されるのは心地よくもないね」
「あ、お構いなく……すいません。つい」
「少し、後ろ向いててね。悪いようにはしないからさ」
僕は目を手で隠すようにして、後ろを向いた。少し残念でもあったがこればかりはしょうがない。
「お利口さんだ。龍太くん、もういいよ、こっちを向いても」
僕は即座にリオさんの方向に身体を向けると、身体全体に、布のようなモノを着ていた。お尻の近くに生えてある尻尾は、布からぴょんと出ていた。
ただ、豊満な身体やおっぱいのふくらみが布から強調されている。それがとてつもなくエロさを表現していた。やはり、ドラゴンになっても僕の価値観は前世と変わらないようだ。
するとリオは「ゴホン」と咳ばらいをした。
「君はスケベちゃんなのかな。顔が火照っちゃうよ。……もう、これ以上変な目で見ると怒っちゃうよ」
見た目的には怒っている感じではないのだけど。薄目でニコニコと微笑みながら、ペロリと唇をなめた。なんだろう。身の危険を感じる気がする。
「すいません。一応、気を付けます。はい」
僕は頭を軽く一回下げた。
リオは「コクリ」とうなずき、僕に一歩、一歩近づいてくる。
「分かればいいんだよ。龍太くーん」
そう述べた瞬間だった。いきなり僕に抱き着いてきた。
やはり、リオ、もといこのドラゴンは痴女だった。だってそうだろう。夜の湖に一人、無謀身に裸になっている時点で怪しかった。この状況はリオさんあんたが悪い。
リオが僕の顔を「ジトー」見ながら、
「……、なにか変なこと考えてない?」
「い、いいや、そんなことはないですよ~」
僕は吹けない口笛を吹くフリをしながら、リオを見た。正直、目が泳いでいただろう。
ただ、この状況はあなた(りおさん)のせいでもあるわけで。健全の反応だと思うのだけど。
「まあいいや。君もそろそろ帰りなよ。ここには魔物が多いから、すぐ食べられちゃうよ。ボクはせっかくの出会いを大切にしたいんだ。一期一会じゃなくね。ふふ、そんな悲しそうな顔をしないでおくれ、ボクとならまたいずれ出会えるさ」
リオの身体が光り輝いた。すると髪色のような、緑、黄色、毛先にかけてピンク色のようなドラゴンの姿になった。
パッと見ても、毛先で鱗らしいところが見えない。両サイドにある翼が美しい。頭もちょこんと角が生えていた。
「これが本物のドラゴン……」
「? 君もドラゴンじゃないか? まあいいや、いずれ会おう、龍太くーん。さらばだ」
周辺の木が揺れるほど風を起こしながら、満月の方向に去って行った。一瞬にしてリオの姿が見えなくなった。
「うん。またいずれ。今度会った時にでも背中に飛びついてみよう」
次に会った時の決意を拳に込めて、拳を天にかかげた。僕は寒さからだろうか、背中が「ブルっと」来たので、来た道を戻った。再び、アミュさんの宿舎に帰るために。
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