第5話「拝啓、いざ散歩へ」
あれから、僕はまた寝てしまったらしい。
ふと目を覚ました僕は、心の中で変な焦りを感じた。
「やばい、会社に遅れる。行かないとまた部長に……」
寝ぼけている僕の目に映って見えたのは、真っ黒な部屋だった。隣からは、「スー、スー」と寝息が聞こえてくる。
「そうか、僕は本当に転生したのか。……、なんだか落ち着かない気分だな。まだ会社のことを考えてしまう」
頭を掻きながら、再び、目をつぶり眠りにつくが……、
「非常にマズいことになった。……眠れない」
それもそうだろう。今までずっと寝ていたのだし、何時間寝たのか覚えていない。それに前世の時は睡眠三時間、四時間だったのだからな。
やることって言えば、アミュの顔をずっと眺めている事だけだしな。いや、それはまだ飽きてないか。
目が慣れてきたので、アミュさんの顔をチラリと見る。寝ている素顔を見ると、ふとほっこりしてしまう。いつの間にか、僕はにやけていた。
「だけど、どうしようか。眠れない。少しだけならば、散歩でも行ってくるか。朝までには戻ってくればいいし」
僕は布団から、アミュさんを起こさないようにそっと出た。そして、ドアの前に立った。
見た目は普通のドア、ドアノブだった。人間の世界にもあったそのものだった。
「簡単に開いてくれればいいんだけど、えい!」
ジャンプしてドアノブをひねると、「ガチャリ」と音がした。すー、とドアが開いた。人間の頃にあった一般的なドアだったみたいだ。
「ラッキー。開いたぜ。もしかしたら、どの世界にも共通しているモノがあるのかもしれないな」
僕はベットに向かい。アミュの顔を覗き込むと、安らかに眠る優しい笑顔をした可愛い淑女がそこにいた。
「それではアミュさん、少しばかり散歩してきます」
そっと足音を立てないようにドアの方に向かう。
「ちょろいものだぜ、待ったく」
僕は、外に一歩出ようとした瞬間だった。
「ドラコ。どこに行く?」
「え?アミュさん起きたの?」
僕は恐る恐る、アミュが眠るベットに目を向けた。そして、僕自身の息を殺しながら、耳を澄ました。
「すうーすうーZZZ」
「なんだ、寝言か、びっくりさせやがって。よく見ると、よだれだしながら寝てるじゃねーか」
胸を「ホッ」と下した。そしてドアノブを「ガチャリ」と閉めると、改めて、自由になったと実感した。
________
僕は周りを見渡した。真夜中なのだろう。満月の光が周辺を照らしている。いくつもの星があり、ロマンチックな雰囲気すら感じてくる。
前世でも星を見る機会があんまりなかったから、なおさら感動を覚えるものがある。
「ああ、妹と一緒に見たかったな。んーいけない。もう妹は居ないんだった」
ため息が吐きたくなる。だけど、僕は出しそうになったため息を飲み込んだ。
今更前世に未練たらたらしてたら、妹に申し訳ない気がしたからだ。
満月の明かりがあって本当に助かった。なんせ、真っ暗じゃどうしようもないし。ここは日本じゃない。異世界だ。いくら生命力の強そうなドラゴンだけど、一瞬にしてこの世界からロストする可能性すらある。
歩くに連れて、けもの道になっていく。ここってまだ森じゃんかと心の中で察し始めた。アミュはこんな森のところで住んでいるのだろうか?
木や林など、邪魔になる枝を踏みながら、道を作っていく。すると奥に青白く、幻想的に光っている場所を見つけた。
「ここは一体?……」
僕はつい目を見開いてしまった。なんせ、青白く輝いている湖に、豊潤な肉体……をも超越する、全体的にエロいと言ってもいいぐらいの女性が、裸で立っていたのだから。
彼女は気づいていない様子だ。湖の水で、緑色から黄色、毛先にかけてピンクになっている長髪を流している。頭には角みたいなものが二つある。
ただ、僕はつい目を奪われそうになる。なんせ、一番僕の目を釘付けにしているのは、法律に違反していそう豊満な身体に似合っただけのおっぱいが目の前にあるからだ。
「こんなの初めて見た……」
僕の鼻がかゆくなってきた。鼻血でも出たのだろうか。いや、それはアニメのだけのお約束……。つい、僕は鼻をおさえてしまった。
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