第2話「プロローグ2/2」
「そんなことが可能なのか。また、僕にチャンスをくれるのか」
ニコリと笑みを浮かべながらアスナは僕を見た。
「うん。龍太お兄ちゃんには今までお世話になっていたし。それに本来助けようと私が手を差し伸べたのに、こんな結果じゃ私自身報われないもの」
僕はこの展開に既視感を感じた。ふと昔読んでいたラノベを思い出したからだ。
女神が妹ってことは予想外だったのだけど、こういったイベント、すなわち異世界に行くのであれば何かしら、スキルや道具をもらえるものなのではないのか。
僕は恐る恐る、アスナに聞いてみた。
「なあ、異世界転生するんだったらよ。なにかスキルとか貰えないのか?ラノベ特有の魔法攻撃とか剣術とか、そうそう魔剣や聖剣とかの僕しか使えない武器とか」
非常に困った顔をしている。アスナは渋い顔をして考え込んだ。しばらくしてから僕の目を見て口を開けた。
「……、仕方がないわね。普通はそんな特典なんてないんだからね。龍太お兄ちゃんじゃなければ『ない』の一言で終わっていたところだったわよ」
この感じはもしかして、これは言ってみるもんだ。アスナは続けて口を開ける。その瞬間ニヤリといつもと違う笑みを見せた。
「聖剣とか魔剣、等はあげることはできないけれど、この中のキャラからなら選ばせてあげる」
アスナは言い終わると、手を天にあげて、五枚の紙をどこからか取り出した。その紙を下に落とし、紙に文字が浮かんでくるのが見えた。
「さあ、龍太お兄ちゃん、その中から選んでちょうだい。私のおかげで好きな姿にしてあげるから」
この中から選べってことか……。うーんそれでも、これらはチート級の能力だろう。見てみるのもありだろう。
僕は、下に落ちている紙を拾い上げた。とりあえず読んでみる。
「蛇、カエル、スライム、ゴキブリ、ドラゴン……、って全然人間の原型ないじゃん」
「仕方ないでしょ。ランダムだったんだから、我慢しなさい。あ、そうそう、龍太お兄ちゃん、やっぱなしとか言わないでね。人間になる選択肢を外しちゃったし、この中以外は選べないから」
「はーーー。ちょっと待て。く、くそそんな制約があったのか。それを早く言ってくれよ」
僕は額に汗を一つぽとりと落とした。それを見たアスナは心配そうに僕を見る。
「え?熱いの?それじゃ冷房でもつけるね」
「え?この部屋冷房器具あるの?ってじゃない、どうにかならないのか?ってっきりスキルとか使って、主人公が活躍する系のモノかと思っていたんだよ」
「んー。そんなのじゃないかな。あ、それじゃ、人の言葉がわかるスキルもつけてあげるからさ。それにこの選択肢は生命力が強い種族だから、龍太お兄ちゃんには合っているかもね」
ニコリと笑みを返す元妹のアスナ。この笑みを見る限り、悪気は無さそうだ。だけど選択肢を見ても確かに生命力は強そうだ、ゴキブリも入っていることだしな。
「選ぶとしたらドラゴンかな。せっかくなるんだったらかっこいいものになりたいし。蛇も考えたけれど手が使えないんじゃな。その他の選択肢は論外だ」
「ふーん。妥当な判断ね。もし、ゴキブリなんて選択肢を選んだのならば、この場で殺処分だったわ」
ニコリとはしているが、目の奥底は笑ってない。僕の選択肢にはなかったものの、選ばなくて本当に良かった。アスナに気付かれない様にホッと胸を下した。
「それじゃ、龍太お兄ちゃん、来世、異世界ではドラゴンね。今度は自由に生きられればいいね」
着物の効果もあってか本当に女神っぽい雰囲気だ。本当にアスナは女神だったんだと今に思えてしまった。
「あー。なんか今、失礼なこと考えてたでしょう。女神っぽくないとか」
アスナは頬を膨らませながら、腰を曲げてから、僕の顔に近づいて上目遣いで見た。
僕は頬をポリポリと掻きながら、
「なんでわかったの?」
「私は女神だからよ。それに龍太お兄ちゃんのことだったらなんでもお見通しなんだからね。それじゃ、他にも仕事があるからもう異世界に送るね」
「ああ、アスナ、今までありがとうな。アスナに出会えてよかったよ」
僕は笑みを浮かべようとしたつもりが、次第に涙でアスナの顔が見えなくなってくる。なんでだよ。別れは涙じゃなくて笑顔でないと締まらないだろ。
涙を見たアスナも涙目になりながら、ニコリと笑みを浮かべる。アスナは回り込んで、僕の背中を軽く叩く。
「なに泣いているのさ、これから新しい世界が待ってるんだよ。なーに、私はいつまでも龍太お兄ちゃんのことは見ているんだからね」
「ふふ、アス……、女神様にそう言われたら悪いことは出来ないな。ああ、見ていてくれ。これから起こる僕の新しい人生、ならぬ龍生(りゅうせい)を」
アスナは僕の話を最後までニコリと頷きながら聞いてくれた。少しの間があってから、アスナの口が開いた。
「あ、そうそう、最後に言っておくけれど、あのハゲ部長、そのあと部下だった松下って人に刺されて、一生身体が動けない寝たきり状態になったわ。だけど、女神からしたら、自分の唾が自分に返ってきたみたいね。ざまーみろだわ。次にここに来たら、速攻で地獄行きにしちゃうわ」
ハゲ部長の状況を聞いた僕は、事のあっけなさに息を吐いた。ただ、自分がやってきた行いが自分に返ってきたのだと考えると、僕の胸は「ホッと」してしまった。これ以上、あの会社から、第二の僕を生み出さないことを祈りながら。
「ありがとう。アスナ。心残りがはれた気がするよ。気にせずに異世界に行ける」
「それでは、龍太お兄ちゃん……、宮本龍太さん、新しい世界でも自由に羽ばたけることを祈っています。それと、これ以上前世のようなことが無いように少しばかりの幸運をあなたに。前世では叶わなかった自由なひと時を過ごせるように願います。」
すると僕の身体が光り輝き、天井が光り輝いている。ゆっくりと上へ上へと引き寄せられていく。
「それじゃ、またな。アスナ、ドラゴンになって、自由を満喫するよ」
とアスナに言った瞬間、アスナといつの間にか出てきた背中に白い羽が生えた小学三年生っぽい女の子と話していた。少しばかりアスナの方が怒っているようにも見える。
アスナと女の子との話が済んだようだ。天井から半分ぐらい上がったところでアスナが話しかけてきた。
「龍太お兄ちゃん、ごめん。事情が変わっちゃった。他の転生者がドラゴンを持っていくものとして選んじゃったみたいで、なんというか……、他の転生者のモノとして指定されちゃった」
「は?なんで、ってもうどんどんと上に上がってきてるんだけど」
じたばたしようにも今の僕には重力が感じることが出来ないから、身動きが取れない。
なんでどういう意味だ。僕がモノとして?誰だかわからないやつのモノになったのか。僕は。
「ごめんね。私も急に決まったことだから、私とは別の案内役の女神が付けたらしいの。その子にはきつく言っておくから、今回は、その転生者のことを助けてあげてね」
アスナは銀の髪を撫でながら、言った。だけど、転生者ってことは僕以外にもスキルを受け取った奴がいるのか。ていうか、誰だよそいつは。
「それじゃどうすれば良いんだよ。ラノベらしく魔王討伐か?それとも国同士の戦いに巻き込まれるのか?」
「それが詳しい内容はわからないの。さっき部下の話しか聞いてないし、勝手に向こうが決めたことだから。分からなければもう無視してもらっても構わないわ。あーなんかむかついてきた。今度会ったら文句ひとつ言ってやるわ」
仁王立ちで立ちながら、頬を膨らませて、アスナは顔を赤くして怒り心頭のようだった。ただ、それが異世界に旅経つ、僕が見たアスナの顔だったのが残念で仕方なかった。
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