記録その12 / 仕掛けるとき!

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 じてんに載っていた動物を参考に、魔生物を捕まえるようリツキさん達に頼んでおき、私とラビュラさんで、異世界に魔法を仕掛けに行きます。


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「さあて。来たわよー、森の出入口に」


ここが異世界ね、と漏らしたラビュラさんはしばらく立ち尽くしていました。

自然とは無縁のこの景色に何も言えなくなってしまうのは、無理もありません。私も同じでしたから。


「どこまで続いているのか、気になるところだけど!」

と言葉を区切り、一枚の紙を見る――あの人が渡してくれたものです。魔法陣が描かれていました。


「これを仕掛けたらすぐに帰るわよ。どこに仕掛けようかしら」


「ここではいけないんですか?」


「だって人目が気になるじゃない? 見られるのは良くない気がするのよねー」


そうして来た道を戻ってゆくラビュラさん。ここはただ、付いていくしかありません――私の生業は狩人ハンターであって、魔導師マジシャンではありませんから……。



「その魔法陣にはどんなものが描かれているんですか?」

文字や記号、それらをいくつ描くかで魔法陣の効果が変わる、とあの人に教わった事はありますが……。


一緒に見てみましょうか、と、ラビュラさんが魔法陣を見せてくださりました。


「円の中に二つ、ばねみたいな曲線が左右対称にあるでしょう? これ、羽根のように見えない?」


「……そうですね。私には竜巻にも見えます」


「あら! 確かに見えるわね! ――そう。羽根や竜巻は、風魔法のシンボルだと言われているの。そんなシンボルの間に直線が引かれているじゃない? だからこれはおそらく、風で出来た扉だといえそうよ」


ひとしきり話し終えたラビュラさんが、さてと、と口にする。


「この辺りで、この魔法を発動させましょうか」


そう言ったラビュラさんが出入口側へ向き直り、紙を前に差し出す。



「風よ! 扉となりて生命いのちを守り、その生命いのちを封じたまえ!」


すると紙が光を放ち出しました!

抱き込むような風の軌道を映しながら、光は強さを増していきます――これ以上は眩しくていけませんっ!




「成功……かしらね!」


この言葉を合図に私はまぶたを開ける。

目の前からそよ風を感じるようにはなりましたが、それ以外の変化はさっぱり。


「上手くいったんですか?」


「ええ! 魔力が風の扉を作ってる!」


と、言われても……。


「アスカちゃんには見えないのか――魔法を極めていくと、その過程で段々とわずかな魔力が見えるようになるのよ。私は目を凝らさないと判断できないんだけど、賢者セージのリッキー君なら、意識しなくても見られるんでしょうね」


賢者セージなら、ですか。


そういえば、どうしてリツキさんはこの事を伝えてくれなかったんでしょう。それに新しい仕事の事も――。


「ラビュラさん」


「なあに?」


「リツキさんは一体、どういうお仕事をしているんですか?」


「どういうって……シャイニングシャークスとして、って事?」


「はい。そもそもその、シャイニングシャークスというのも何なのか――」


「……本当に何にも教えていないのね。ごめんなさい」


「どうして謝るんですか?」


「だって、家族が家族の一員について何にも知らないなんて、家族が困るでしょう? だから仕事内容はちゃんと伝えるようにって決めた上で活動してもらってるの――私が直接あいさつに行くこともあるわ。でもリッキー君はそれを嫌がったの」


「なぜ嫌がったんでしょうか」


「それは…………」


どうしたんでしょう? 顎を拳に乗せたまま黙り込んでしまいました。




「一つだけ聞いて良い?」


やがて口から出た質問に、私は、はいと答えます。答えたのに……。

口をわずかに開けては思考に戻り、また開けては戻り、の繰り返しです。たったひとつの質問に、何をためらう必要があるのでしょうか。




「…………カゲルに家族を殺されちゃった、って、本当?」


っ――!!


「その表情だと、本当のようね。

 私があの建物を建てた理由がね。カゲル復活のお告げがあったからなの。それと同時に、新しい戦士がアースから来るって事も伝えられたし、それの架け橋となる存在の事も聞かされた。だから世界中のあらゆる人に頼んだの。アースという場所と、架け橋になる人を探してほしい! って。でも、こんなわずかな情報じゃ探せない! って断られるのがほとんどだった。

 そんな中で唯一来てくれたのがリッキー君だったの。――俺は、カゲルに家族を殺されて復讐の為に生きてきた女の子を預かっている。そんな子がやっと穏やかに過ごせると思いきや、復讐相手が復活と聞いたら黙っちゃいられねえ! って言ってね。そうして仲間を集めた彼が結成したのが、シャイニングシャークス」


「じゃああの人が仕事のことを詳しく言わないのは――」


「あなたが、何にも気にせず穏やかに過ごせるようにって」


穏やかに、ですか。もう知っちゃいましたのでこれは叶わないですね。



と、いいますか。


「私には無理なんです」


「無理って?」


「カゲルを倒す運命に抗うなんて、私には無理なんです。むしろこれは――」


振り返ると映ったのは、ラビュラさんの――あの時お姉さんがしたような、悲しげな表情。どうして皆さん、あんな表情をするんですか。

だって私が家族に生かされたのは。


「宿命なんです、私の」


「アスカちゃん……」


ですから、そんな顔をする必要ないんですってば。


「行きましょう。今頃、どうぶつをたくさん捕まえた皆さんが、私達の帰りを待っている頃です」


そうして私は家へ向かう。


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