記録その11 / 団結するとき

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 アースの森が、マンションという、人が住む場所に変わってしまう事を阻止する為に、私達は一度ローブンへ帰りました。


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「――ただいま戻りました」


「おおっ、戻ったか! ラビュラさんも、ミズキさんも! 」


「皆ただいま!」


「ああ、戻ったぞ」


アースに来られなかったリツキさん達は何事も無さそうです。良かった。


「アスカも、皆さんも、無事で何よりだわ」


「僕達が外に出た瞬間、3人だけその場にいなかった時は焦ったっすよ!」


「ああ。探したはいいが、辺りは何にも変わっちゃいなかったからな――俺達はアースに行けなかった、行けるのは五大戦士だけってのを思い知らされたわけだ」


その言葉の後、お姉さんとお兄さんが表情を曇らせる。それを見たリツキさんが、いやあ、と声を小さく漏らす。


「俺達、新しい五大戦士を全力で助けるつもりで、ラビュラさんとミズキさんの下で色々やってたんだけどよ……悪いな、アスカ。力になれなくて」


ごめんなさい、すいませんっす、と、2人があの人の後ろで肩を落としている。


……困りました。なんて声をかければ良いのか。



「ちょっと3人共? らしくないわよ?」


「今すぐ君達の知恵を借りたいところなんだが。その様子では他を当たるしかないようだな――行こう、ラビュラ、アスカ」


えっ!?


「そうねー。ミズキが言うんだったらしょうがないわねえ」


ラビュラさんまで!?


「待って下さい! 私はリツキさん達じゃなきゃ嫌です!」

と言って引き留めたは良いものの、振り返り様のミズキさんの表情、不満が丸見えです。


「言ってみろ。シャークスでなくてはならない理由を」


「それは……」


「彼らにこだわる必要がどこにある?」


「そうよそうよー」


それは……ちら、と3人に目線を移すっ……え、どうして泣きそうなんですか? もう……。


「……一番信頼している人じゃなきゃ、無理ですとか、わがままなんて言えないじゃないですか。私にとってそういう人はあの、リツキさん達だけなんです。他の人は全然考えられないんです!」


ふう……言い切った……!


すると後ろからうめき声があっ!

「アスカあああーっ!!」


「ちょっと、止めてください人前で!」


と注意するも――リツキさん全然聞いてない――頭をがしがし撫でてくっ、わあっ!


「良い子に育ったわねえ! おばちゃん感動しちゃった!」


お姉さんがおばちゃんと言い出す始末……でも、似てますね。雰囲気が、私のお母様に。


「良かったっすね、リーダー」


「あ゛あ……俺、生きでで良がっだあ!」


慰められるリツキさん……お兄さんの方が年下なのに……。


「情けないぞ、大の大人が」

私の胸中を察したようにミズキさんが言う。


ラビュラさんに至っては、この光景に笑いをこらえきれないようです。






……って!


「今はこういう場合じゃないです! このままじゃ、向こうの世界の森がなくなってしまうかもしれないんです! そうなってしまったら道は閉ざされます――もう二度とアースに行けなくなります!」


「おいおい! せっかく異世界に行けたのに行けなくなるってのか?!」

これは大変だぞ――と、リツキさんは私から腕をほどき、ミズキさんと話し合いをし始めました。


それにしても、今のは耳元で言う声量じゃないですよ……髪の毛も服も、すっかりくしゃくしゃですし……。



「――森に侵入されないようにするにはどうするべきか。これを考えるんだ」


「どんな森なんですか? 異世界のは」


「それは、アスカ、説明をしてくれるか?」


「はい。一言でいえば、何もありません。小さい花や、虫がいる程度で、生き物はほぼいないです」


「何もねえのか……」


「それなら!」

誰かが、たん、と手を打つ。


「とってもいじり甲斐があるわね!」

ラビュラさんです――くすくすと笑っていますね。


「ラビュラ、意味を説明してくれ」


「ミズキったら、何の為に姿を見せないようにアスカちゃんを連れ戻したのよ。私が使った風魔法に、あの人達は誰も、一言も! 魔法だって口にしなかったわ――つまり、異世界の人達は魔法の存在を知らないのよ」


「……たった数分の滞在でそれを確信するのはどうかと思うが」


「いえ、十分にあり得ます。遠い距離を自分の足でずっと歩いていましたし、図書館に行った時には魔法についての本は扱っていないようでしたから、魔法は存在していない可能性が高いです」

と、言った私――ラビュラさんの考察は間違っていないと思ったので。


……首を傾げて、動かないミズキさん。無理もありません。ここ、ローブンでは当たり前のように魔法を使っていますから。それが一切ない、と考えるのは――。


「もう! 考えても何も始まらないでしょ? まずはやってみなくちゃ!

 とりあえず魔法で入口を塞ぐでしょ? それでも入ってきちゃう場合は……魔生物に追い払ってもらいましょ!」


「魔生物を連れていくのか?! 下手をすれば重症を負わせてしまう!」


「それを私達で何とかするのよ! 危険な目に合っているところを助けて、この森に二度と来るなー! みたいな事を言っておけば、恐ろしくなって大抵来なくなるわ。あの悪ーい顔のおじさんが、わーきゃー言って逃げ帰ったら大成功ね!」


あー楽しくなってきたわー! と一人で盛り上がっているラビュラさん。

――不謹慎ですが、確かにあの、むやみに森をなくそうとしているおじさんが慌てて逃げる様は、見てみたいかもしれませんね。


「……そこまで考え付いているならラビュラ、ここは君に一任したい。私が入ると、かえって上手くいかない気がする」


「あら、ずいぶん後ろ向きね?」


「適材適所、というものを考えた結果だ――あとは任せたぞ。私はカゲル討伐の術でも探し回るとするよ」

あっ……行っちゃいました。


「じゃあ早速! どんな魔生物が良いか考えなくっちゃ! アスカちゃんは何が良いと思う?」


「向こうの生き物と、そう変わりない生き物が良いと思います」


「じゃあ向こうにはどんな生き物がいるか調べなくちゃいけないわ」


「調べる――あっ」

あの時借りた“ことばえじてん”があります!



棚にしまったじてんを取り出して。

生き物が載っているページを探して……。


「その本は?」


「向こうの図書館で借りた辞典です――ありました!」


どうぶつ、の類であれば、あの森にいてもおかしくないでしょう。


「この中から探しましょう」


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