記録その10 / 異世界の異変

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 私は、前・五大戦士であるラビュラさんとミズキさんに昨日の事を話すと、2人はすぐにアースへ向かうことを決断。時空魔法によって、ファトバルから自宅へと飛んで帰りました。


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「まずは一度、家の中に」


私は家の鍵を開け、皆さんを家へ招き入れます。


全員いらっしゃることを確認して――。


「そして私が、証がある左手で、扉を開けます」

と説明をしてそれから、扉のノブに手をかける。


すると、扉の隙間から眩い光が現れます。

これを確認し、私は扉を開け放つ。


「この先が異世界アースです。行きましょう」

と声をかけ、私は先へ進む。




景色はやっぱり、近所と変わりがなく、森。


後ろには私の家がありますし、皆さんちゃんとくぐることがで――きてない?!


「あの、リツキさん達は!」


「 ? ……なんだ、来ていないのか」


「おかしいわね。私のすぐ後ろを付いてきていたはずよ?」


「――この人選であると恐らく、五大戦士でない者はここに来られないのかもしれないな」


「そうですか……」

それは残念です――――?


何故でしょう。前回来た時とは違う気配がします。



「どうしたんだ?」

ミズキさんに声をかけられる。

表情から察するに、ミズキさんは特に何も感じていないようです。

ラビュラさんも同じ……。


「いえ、何でも。私の気のせい――」


のはずがないです。枝葉が一瞬大きく騒いでそれから、どさりと。

でもどこからこんな音が――耳を澄ましてみましょう。



……地鳴りに似た音。そして、じりじり、ぎりぎりと耳障りな音。

枝葉の一瞬の音と重なって――。



「どうしたの? いきなり耳に手を当――」


「静かにして下さいっ!」


一体どこから。

生き物すらいないこの森で、こんな音はあり得ないです。


方向は――――この森の入口!


「おいアスカ!」

「アスカちゃん!?」

構っていられません。今すぐにこの予感を確かめなくては!






次第に大きくなってゆく音。確実に、音の正体に近付いている。

のですが、うう。こんなの耳障りなんてものじゃないですよ。身体の奥深くまで震えさせるこれは耳を塞がずにいられませんっ。

一体どんなものがこんな音を出――ああっ!


「木が倒れた?!」


なのに地鳴りに似た音は健在。


「――よーし、皆! とりかかれー!」


まさかヒトが森を荒らして――っ! 音が至る所から……今すぐ止めさせないと!


紋章よ、私に力を貸して!


「Ake, wol, ……Houl!」


スゥ――――



「 や め て く だ さ い ――っ! 」



……よし。全員こちらを向きました。

それに、音も次第に、止んでいきます。


音の正体は、皆さんが両手で重たそうに持っているあの大きい道具ですね。箱に付いた金属――おそらく刃物。刃先にごつごつとしたものが付いています――あれで木を切ったのでしょう。


「ちょっと君! どこから入ってきたの危ないでしょ!?」

この人の声。先ほど木を切るように指示した声と同じですね。


「森を荒らすなんて止めて下さい! 木が泣いています!」


「そう言われてもねえ。おじさん達はここを更地にするように依頼されてんの! 止めるなんて出来ないのさ」


「どうしてもですか? どうしても木を切らなきゃいけないんですか!?」


「っ……とにかく作業の邪魔だから! 誰かつまみ出して!」


つまみ出す? ――いいえ、ここで捕まるわけにはいきません!


正面から手首を掴まれようなら相手の手首側に甲を返して!

自分の手の平を相手の甲に回して相手の腕が上がったところで、自分の腕を倒す!

「いでで――っ!」

そうして私から離れたところを突き飛ばすっ!


束でかかろうものなら目先の相手の顔ぎりぎりまで拳を突き出し!

怯んだ所を控えの相手めがけて力で押し込むっ!



立て直される前に茂み越しに距離を置いて。



目線は、絶対に対象から離さない……。



「おやおや、何事かなあ?」


誰か来ましたね。あの人は――昨日森の前で私を追い払った人!


「また君かね。どこから入ってきたのかなあ?」

相手方も覚えているようです。


「あなたが言ったんですね? この人達に木を切るようにって!」


「いいえ? 私は、所有者からの指示をこの方達に伝えただけですよ」


「木を切ると指示するようにさせたのはあなたでしょう! この森をなくしてマンションを建てましょうって、あなたが言ったんじゃないんですか!」


「それはもちろん。言わない限りは何も変わりませんからねえ? ただの森に人が住めるはずないでしょう?」


「人だけが住めれば良いんですか? 生き物の住む場所は考えないんですか!?」


「生き物の住む場所なんてよそにもありますよ――ほら皆さん、ぼーっとしていないで! 早くこの子をつまみ出して!」


――話は通じないようです。

だったら私が、この人達を追い出すまで!



「騒がしい――」



……今の声は?


「何だ何だ?」

「どこにいる?」


木を切る人達も、動揺しているようです。


「……どうせこの子のいたずらでしょう! ほら! さっさと捕まえなさ」


「騒がしいと言っている――!」


っ! いきなり強い風が!



「我らの眠りを邪魔する者は誰だ――我らの生命いのちを刈り取る者は誰だ――!」



うう……どうなっているんですか! 砂煙が舞って、何も見えないんですけど!



「勝手に行動されると困るんだが?」

っ後ろ!? か――ら……。


「ミズキさん……」


「我らの身を汚そうものなら――」


今度は上から――ってあれは、ラビュラさん?


「その身に災難が降りかかろう――!」


と言いながら、こちらに親指を立ててウインク……もしかしてこの風を起こしているのは――!


「ラビュラの魔法で上手く追い払えているようだ――私達も一度帰るぞ。作戦を立てるんだ。この場所を、なくすわけにはいかない」




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