少女、対面する その2
「どうしたの? こんな早い時間に」
と言うこの女性。ぴっちりとした膝丈スカートに襟付きシャツが、しっかりした方だと印象付けてきます。そして、桃色に近い赤色の、肩までさらりと伸びた髪が、私の目には刺さるように眩しい。
……と見ていると、その女性が私の視線に気付いたようで、笑みを浮かべながら小さく手を振ってきました。
会釈だけ、しておきましょう。
正面に向き直ると、あの人と、その先で机ごしに着席する方との対話が始まっていました。
着席する方の見た目や表情は、逆光なのでよく見えません。強いて分かるのは華奢な体型であること。なのに、それを感じさせない静かな威圧感は、激戦をくぐり抜けた戦いの長を思わせます。
そんな方が突然立ち上がって。
机を離れ、私に歩み寄ってくる――!?
「なるほど、君が新しく選ばれた戦士か」
と、片膝立てて私の左手をとったその方の、横に流した前髪から覗く端正な顔立ちは……。
……言葉が上手く出てきません。
先ほどまでの恐ろしい雰囲気はどこへやら。わずかに漂う凛とした香りから、長としての勇ましさと美女という言葉のふさわしさが――。
「ちょっとミズキ、その子緊張しちゃってるわよ?」
「 ! ……これはすまない。どうも馴れなくてな、警戒心を解くというものが」
と困ったように微笑んだ時に揺れたひとつ結びの青髪からも豊満な香りが――。
「危ない!」
えっ! ……はぁ、いつの間に私、うしろに倒れかけていたんですね――赤髪の女性に背中を支えられていました。
「大丈夫? 恐かったでしょう?」
と心配してくださるこの女性も、同じような香りがします。
……いやいや、なぜこんな殺伐とした部屋で夢見心地な気分を? しかも先ほどまで殺気立ってた方がまとう香りでですよ? こんな方々の元で行っているお仕事とは、一体どういうものなのでしょう――。
「はい、これに座って?」
と、いつの間に用意されたのは椅子でした。
気が付けば、ミズキさんは元の場所へ戻っていて、3人も私と同じような椅子に腰かけていました。
椅子を用意してくださった赤髪の女性も私から離れ、落ち着いていないのは私ひとり。
ひとまず、私も、座りましょう、っと。
「よし、まずは自己紹介をしよう。私はミズキ。向こうにいるのがラビュラだ」
「よろしくね! あなたのお名前は?」
「――アスカです」
「アスカちゃんね? じゃあ早速これを見て?」
近付いてきたラビュラさんが、私に左手首を見せる。そこには銀色の鎖で繋がったプレートに赤色の宝石がはめ込まれていた――ってこのブレスレット、まさか!
「分かったようね――そう、これは五大戦士の証。私は赤の戦士として、ミズキは青の戦士として、以前、あと3人の仲間と一緒にカゲルと戦って封印をしたの」
「だが、カゲルは復活してしまった。そこでまた新しい戦士が必要となってしまったんだ。その戦士はアースからやって来ると聞いたんだが、君はアースというものを知っているか?」
…………。
「正直に答えてくれれば良い。アースを知っているのかどうか」
「知っています。私はアースとこの世界を繋ぐ架け橋のような役割を担ってますから。ですがその前に、私も質問させてください」
おいアスカ――と声が上がった気がしますが、気にしません。
ラビュラさんとミズキさんがしばらく顔を見合わせていましたが、やがて、話してくれ、と許可をいただけました。
「カゲルが復活したという証拠はあるんですか?」
「証拠ならある――ラビュラ」
「了解!」
えーと確か……と、ラビュラさんが本棚を探る。
そういえば。この部屋の周りはよく見ると、本棚に囲まれていますね――どの棚も本が敷き詰められています。それに、ミズキさんの机には、山のように資料や本が積まれていて、前・五大戦士として出来ることを、精一杯行っているのですね……。
「あった! これこれ! ――はい。これが当時、封印の場だった写真よ」
と、ラビュラさんから写真を受け取りました。
……確かに、魔法陣の中心の岩が、ばらばらに砕け散っていますね。
「ついでに、号外に載せた封印当初の写真が、これ」
と、もう一枚写真をいただきました。
中心の岩に、魔法陣で使われているであろう文字が、あらゆる方向に駆け巡っています。魔法陣の輝きもしっかりしていますし。2枚とも、同じ位置から撮ったようですし――。
「本当、なんですね」
「ええ。信じてもらえたかしら?」
「はい。ありがとうございます」
と、2枚の写真をラビュラさんに返しました。
……はあ。
真実なんですね、やっぱり。
正直、嘘であってほしかったですね。
だって、私の家族の仇は討たれていなかったって事になるんですよ?
まあ。
だからこそ、といいますか。やはりといいますか。
私の手で仇を討ちなさい、ということなんでしょうね。
「それで、アースについてなんですけど――」
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