追憶――私の力



――いいかいアスカ? 右肩にあるその紋章は、誰にも見せちゃあいけないよ?


「お父様、それはどうしてなの?」


見せても、何も良い事がないからさ――



――――。



「私の目的は、君達が持つ“wol”の力を借りること。――君だって“wol”の末裔に違いはないだろう? それなら、私のこの手を君が握ればいい。そうすれば、君の家族は救われるというわけだ――」



「ねえお姉様。うぉる、ってなあに?」


「そう。アスカはまだちゃんと教えられていないのね。――狼の力を使えるようになる、よ。昔はこの力で魔法使いを助けていたんですって。今は希少な存在になってしまったけれど――」



「異端、異質――それを対象者から感じれば、おびえてしまうか、除けようとするか、逃げ出すか。誰だって、このいずれかの行動をとる」


そう――


「誰だって恐怖を感じるんだ」「ニンゲンは見たことのないものに疑念を抱く」「良いものなのか悪いものなのかを見定めようとする」


大抵の奴らは見た目だけで決めつけてしまうんだ――


「だけど、その判断が正しいかどうかは、この力を自分のものにしなくては分からないだろう?」



 があ゛ああ――っ!

 きゃあああ――!!


「お父様!! お母様!!」



「手が冷たい――息も、してないわ」


「構うな……早く、逃げ、ろ――」


「おとうさまああああ――っ!」



もし、私の――


「この右肩にあるものをくれたら、何もかも戻してくれるっ――!」


「それをなくすなんてことしたら! あなたがあなたじゃなくなるのよ?! あなたの周りが何もかも戻ったとしても! あなたがあなたじゃなくなったら――!」


「……」


「それは、誰もが悲しむことだわ。……カゲル。あの子ではなく、私を連れて行ってくれませんか?」


え……

「どういう、こと?」


「そうだ。何故私が決めたことに口出しをする」


「でしたら。これを見て考え直してもらいましょうか――」



 ake, wol...... pow whole――!



「アスカ、もう大丈夫よ。――これは私自身が編み出した新しい“wol”の使い方なの――少しは見直してもらえたかしら、カゲル?」


「――面白い! ――してくれるんだろう? 私の相手を」


「お姉様――」


「離れなさい。ここにいたら命がないわ」


「でもお姉様は――!」


「自分の命を心配しなさい――戦うことができないあなたは、戦場に変わるここにはもう居られないのよ」




お父様とお母様は、立ち向かった。


大好きなお姉様は、私の代わりになってカゲルに捕まった。


私は?


私は一体、何をした?



「私は、逃げる事しか出来なかった! 誰も救えなかった、誰も守れなかった!!」



何もできなかった私は、ここにいる意味はあるの?



「これで私の心臓を突き刺したら、きっと――!」


「馬鹿野郎っ!」

きゃっ!


「あの野郎はまだ生きてんだぞ! このまま負けっぱなしで死ぬっつあお前、そんなみじめな事して家族が喜ぶと思ってんのか!?」


「あなたなんか! 私の家族と何にも関係ないでしょ!?」


「んなこたあねえっ! ――俺は、お前の姉に散々助けられた。お前の右肩のと同じ紋章で、チームの前線を張ってくれていた! 感謝してもしきれねえ……! だから、今度は俺が、あいつを助ける!」


「でもお姉様は連れていかれて――!」


「死んだと思ってんのか? 馬鹿だなあ……あいつはかなりタフだぜ? チームメイトの俺が言うんだ、心配するこたあねえ。てか、お前がお前の姉を一番に信じなくてどうすんだよ――とにかく! 俺がさっさとお前の姉を連れ戻す! だから頼むぜ。お前は、お前の姉に会うまでは――」



――生きていく。


僅かな望みと、私の力を信じて。

私は、今を生きていく。


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