記録その7 / 帰宅

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 私は、森の前で人を入れようとしない開発者を、獣化することで避け、なんとか家へたどり着きました。


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――さて、この世界の人達と意思疏通できるように、先ほど借りた本を使って、文字の勉強をしていきますよ。




扉のノブを、ひねる。

すると、隙間から光が漏れ出してきました。



「ただいま帰りました――あ、帰って来ていたんですね」


あの人がこちらに向けてぽかんと口を空けています……?


「どうしたんですか? 何かありましたか?」


「何かありましたか? っていやいやちょっと待てって! お前どういう登場の仕方してんだよ! 家入る為だけに光を放つ必要あんのか!? つか夜遅くまでどこほっつき歩いてんだ! かなり心配したんだぞ!」


「それは……」

鼻と鼻がくっつきそうな勢いです。




「――飯は食ったのか?」

え。

「いえ。まだです」


「ならさっさと夕飯にするぞ」

と言ってあの人は食卓へ向かってゆく――?


「あの! 今、夕飯と?」


「おう、夕飯だぞ。仕事から帰る前にお裾分けしてもらったおかずがあるんだ――」


確かに、食卓の上には冷めきった揚げ物が置かれてあります――みたところ、近所の漁村で採れた魚の、穀物衣揚げですね。



ひとまず、あの人が向かった食卓へ私も向かいましょう。


私が食卓の椅子へ腰をかけたと同時に、あの人が手を合わせる。私も、同じように手を合わせます。


「この世の生命いのち全てに感謝して――」


いただきます、と、夕食の始まりです。




それにしてもおかしいです。向こうでは朝、朝食すらままならない中を過ごしたはずですのに、ここで夕食をいただくことになるとは。


窓に目を向けると外は真っ暗――あの人の言う通り、この世界では夜なんですね。


ということは? ここと向こうとでは時間の経ち方が違う、ということになりますよね? 異世界を行き来した影響がこれでは――あの人にご迷惑をかけるわけにはいきませんので――あの世界で遠出をすることは困難を極めますね。


文字も伝わらないですし――そもそも読めませんし、文化も環境も、考え方も違います。



そう。


ここと向こうとは、何もかもが違う――。




「どうしたんだよため息なんかついて」


あ。

私、いつの間にかため息など。


「食べるのも一向に進まねえし、何かあったのか?」


「いえ……すみません。ちょっと考え事を」


「――また変な事考えてるんじゃねえだろうな?」


「今になってそんな事、あり得ませんよ」

と微笑んでおきます。これに納得したようで、あの人は食事へと戻りました。



――変な事といえば。この数時間の体験は全くもって普通じゃありませんよね。

カゲルが復活したなんて話も端からおかしいですし、異世界に行ったなんてもっての他です。


ですが、そこで体験した事はひどく現実味を帯びていて。


何より、左手首にあるこのブレスレットの質感が、今までの事が嘘じゃないと物語ってくる……。



「それは何だ?」


と、聞いてきたその人が、私が無意識に上げていた左手首を見る。


「これは……」


信じますかね。こんな物が、五大戦士の証だって――。


「ちょっといいか」

と、私の左手首を掴み、ブレスレットをまじまじと見つめます。


「…………誰かからもらったのか?」


「ええ。もらいました」


「誰から?」


誰、といいますか――姿を見たわけではないですし……。


「天、から?」

と結論づけるとこの人、こてっと肘から崩れ落ちました。


「ったく、冗談よせって! 天からお告げがきたあああっ! じゃねえんだから――」

かっかっか! と大きな口で笑っていますが。


この人、さすがといいますか。

何も言っていなくても、勝手に的を射てくるんですから。



――まあ、長い付き合いですからね。

そんな人に真実を隠す必要が、一体どこにあるんでしょう。



「あの」

今の話題に乗じてしまいましょう。ちゃんと言って、協力をお願いした方が良い気がしてきました。


「――言っていること、間違いじゃないです」


「へ?」


「このブレスレット。お告げでもらったんです」

おっと? と相手から声が漏れる。


「いやいや、無理して乗っかんなくていいぞ? 俺はただ、冗談を冗談で返しただけで――」


「冗談なんかではありませんよ。私が今まで冗談を言ったことがありますか?」


「そりゃあまあ――――えぇっ?」

んん――必要以上に詰め寄ってきますね。


「マジなの?」

もちろん頷きますよ。


「未だに私は信じられていないんですけど――最近、カゲルが復活したそうで。私、そいつを倒す五大戦士の候補に選ばれたんです。その証がこのブレスレットでして――」


「ふぉぉぉおマジかよそれえええ!!」

わああびっくりしました――急に立ち上がって叫んだと思えば雄叫びまで上げ始めて。


「こんな時間に叫ばないでくれませんか? 魔生物が寄ってきたらどうするんですか」


「いやあスマンスマン。まさかこんな身近に選ばれたやつがいたとは思ってなくてよ」

と席につきながらこの人は言います。


「そうと決まれば明日報告に行かねえと!」


「報告ですか?」


「おう。ファトバルにいるんだよ、俺に仕事をくれる偉い人がさ。その人にこの事を報告しに行く。もちろん、お前を連れてな」


「私を連れてですか?」


「当たり前だろ? ――とりあえず明日の予定としては、日が昇る前に俺だけが出発。仲間をここに連れて来次第ファトバルに行く。それまでには悪いが、洗濯、掃除は必ず終わらせといてくれ。……おし、ごちそうさん! まずはすぐあいつに連絡して――」



なんだか、思ったより大事になってきましたね……。


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