記録 その6 / 帰り道にて
~~~~~~~~~~~~~~~
交番の男性と別れ、文字を覚える為に参考になりそうな本を借りた私は、一度家に帰ることにしたのですが、――
~~~~~~~~~~~~~~~
「一体どうしたものでしょう」
森の前に二人、人がいます。
朝に見たような正装の方々。ずいぶん話し込んでいるようで、森から離れる様子がありません。
「 一体どんな話をしているのでしょうか」
耳に神経を集中させて――――
「――迷っているんですよ。この土地をどう活用しようか」
「それならマンションを建設することが懸命でしょうなあ。形ノ原市はこのところ、土地開発が進んでおりますからねえ」
「それは確かに。ただ、他の土地もほとんどが住宅街になる予定なんでしょう?」
「住宅やマンションは多いに越したことはありませんよ。この地域は最近、ビジネスマンが多い傾向にありますからねえ――」
――――土地活用、開発に、住宅街、と。
何かが建つ、ということでしょうか。
ですがこの森に平らな土地があるとは思えません。
……まさか開発って!
「止めてください! 森をなくすなんてこと!」
「はい?」
よし。土地の使い方を教えていたふくよかな人の意識を、こちらに向けることができました。
「あの、この子は?」
「知りませんよこんな子――どういうことかな? これからはこの人がこの土地の主になるんですよ?」
「そうであるとしても。自然をなくすなんて許せないです! 建物なんてもういっぱいあるじゃないですか! さっき、住宅街ももうたくさんあるって――」
「あれえ?」
っ……距離が近い。見下すように、にたあ、と笑う口の中から、歯並びの悪さが覗く。
「どうして君は、そんな事を知っているのかなあ?」
「……そんなの、あなた方が言っていたからに決まっているじゃないですか」
「つまり!」
あぁ顔がうっとうしい。
「君は無断で、我々の話を聞いていたという訳だねえ?」
思わず目を逸らしたくなりますが、ここは気負わなくては。
住宅は十分にあると言ってましたから、それを、森をなくしてまで増やすというのは安易な考えのはずです。その考えを、簡単に曲げるわけにはいかないのです。
だから、私はここで目を逸らすわけにはいかない。
「それは、子どもだとしても、許されない事だよ?」
ふう、やっと私から離れて下さりました。
「すみませんねえ、お客様。余計なお時間をいただいちゃって――さあ、子どもは帰った帰った!」
私に向けて手を、払うように動かすその人は、どうやら森からは離れるつもりがないみたいです。
ここは仕方がありません。離れましょう。
そして――不本意ですが、ここは私だけの力を使うべき時ですね。ヒトであったら通れないんですもの。
まず誰にも見られない場所を見つけて、と。
私の右肩にある紋章に触れて――。
「ake, wol, whole――」
づっ――――。
縮む感覚。
体温、心音が高まってゆく感覚。
かなり、久しぶりです、この感覚は……。
――ふう。
視点が低くなって、視野が広くなって、前と後ろの4つの足で、ちゃんと立ってる。
両目で見ないと、景色がぼやけてしまうのと、色の区別がつきにくくなったのが残念ですが、これは仕方のないことです。
久しぶりでしたけど。
獣化、できました。
これであの人に注意されることはなく森の中に入れますね。さっさと通り過ぎますよっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます