記録 その4 / 知識の森
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男性からもらった おにぎり というご飯を食べた後、私は交番を、男性と共に離れました。大通りを歩くと間もなく、左方向の、枝葉を伸ばした木々のアーチがかかる遊歩道へと曲がりました。
それから1、2分程歩いた先に――
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「――あれが形ノ原市立図書館。通称、知識の森さ」
なるほど、図書館ですか。まさかこの世界で真っ先に図書館を見つけられるとは。
図書館でしたら確かに、ありとあらゆる情報に目を通せますね。何も知らない今の私にぴったりの場所です。
それにしても――。
「知識の森、と言うのはどうしてなんでしょうか」
「それはあの門の先を見たら分かるよ」
と、男性が指差した先。遠目から、黒い格子状の門が見えました。
行ってみましょう。
…………。
あぁ。そういうことですか。
格子の門の先。立派な木々に囲まれた建物が見えてきました。
「本当に、森みたいです」
「でしょ? でも驚くのはここだけじゃないんだなあ――早速中に入ってみようか」
格子の門を通り過ぎ、出入口直前の緩やかな傾斜を上がると、目の前の透明ガラスでできた両扉がひとりでに開き。
真っ先に、木漏れ日が照らす大広間が目に飛び込みました。
中心の大樹はぐんぐんと枝葉を伸ばし、天井からの光を一身に受けています。
壁には草花を大きくしたような絵が隙間なく描かれていて、まるで私が小人になった気分です。
そんなこの階から上の階が見えるのですが、いたって単調です――黄みがかった白い壁一面に、焦げ茶色の本棚が連なっています。
まさに、図書館と森が混ざり合った、名前の通りの場所ですね……。
「どうだい、違う世界に来たみたいだろう? 大人も子どもも、おじいちゃんおばあちゃんも、誰もがわくわくする場所にしたくて、この空間をデザインしたようだよ?」
と、後ろから男性が声をかけてくる。
その人が言うとおり、ここで過ごす人々の年齢は多彩な様子。
点在する色とりどりの椅子達の間を、縫うように走る子ども達。
談笑するご老人方。
私より一回り上の方も、更に上の方も、と、あらゆる人々が目に映りました。
「確かに、ここにいるとなんだかわくわくしてきます」
「よーし、じゃあこの先のご利用受け付けカウンターで、お嬢ちゃんの利用カードを作ろうか」
「はい」
ということで、大樹の根元にあるご利用受け付けカウンターへ。
……何故か受け付けの女性が警戒心あらわに見えるのですが、大丈夫なんでしょうか。
――――。
「あっ、利用カードの作成ですか――!」
男性が話をし始めると、女性は胸を撫で下ろした様子。
やがて男性は、紙を持ってこちらに戻ってきました。
「いやあ待たせちゃったねー。これに名前と住所を書けば、カードを作ってくれるって」
手渡された紙はまたもや、角々しい文字で書かれていましたが、その上にふりがなが。
名前、はこの欄に。
住所、はこの欄に――と。
「あの。書けました」
「よし、なら自分でお姉さんのところに持っていこうか」
言われるがまま、私は受け付けカウンターの前に。
「お願いします」
「はい、ありがとう――――? お姉ちゃん、これ、なんて書いたのかな?」
「名前と住所です」
と言うと、女性は首をかしげたまま動かなくなってしまいました。
そこに男性が現れて、私が書いたものを女性からもらい、見る。
「これは、確かに、読めないなあ……すみません、この子、外国から来たばっかりみたいで――」
ああ。忘れてました。
私の字は、この世界の字とは違う。
だからこの世界の文字は、私が手で触れることで読める字に変わるのであって――。
気がつくと、男性は、女性からもう一度紙をもらっていました。
「じゃあ僕が代わりに書くから、名前と住所、教えてくれるかな?」
「はい、すみません――」
これは大変な問題です。自分で名前すら書けない――認識されないとなると。
ここは何としても、この世界の文字を覚えなくては。
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