カキタバル①
最近、気味の悪い夢が続いているんだ。心当たりはあるが、これを伝えるとなると俺の身の上話も聞いてほしい。
それもこれも親父の野郎が死んでからだ。親父は家庭のことにまったく興味がなく、良くも悪くも仕事に打ち込む男だった。
いや、悪かったのだろう。それもあってか、クソ女はそれに耐えきれず離婚、親権は親父に押し付け、いっちょ前に慰謝料だか、生活費だか、請求してやがった。
当時、バカ丸出しの中坊だった俺は両親を憎んだ。
今となっては、どうでもいい話だ。
そのどうでもいい父親が先月、天に召されちまった。親父はどうでもいいが、奴の遺産はどうでもよくはない。
良くも悪くもの良いほうだな。奴は仕事ばかりに打ち込むだけあって金はたんまり持っている。
俺は、10年ぶりに実家に帰って遺産整理という名の宝探しをしに行ったわけだ。
仕事にばかりに打ち込む性格は変わることもなく、愛人や新しい子供をこさえてくるようなことをしない男で助かったよ。家ごと全部俺のものになったんだからな。
俺はどうでもいい興味のない親父の私物は質に入れてしまおうと思ってな、親父の部屋の整理をしようと部屋に入ったわけだ。
とても面白みのない部屋だったぜ。なんせ、あるのは机とベット、そしてタンスが一つだけだ。もうし分程度に、ベットから伸びた携帯の充電器と、くたくたの通勤カバンが生活感を出してたぐらいのもんだったよ。
ん?タンスは、一つじゃなくて一棹だって?人の話の腰を折るなよな。
あんたアレだろ。コンビニの店員に「箸は何本付けますか?」って聞かれて「一膳お願いします。」って答えるタイプだろ?純粋に興味があるだけなんだけどよ、「三膳お願いします。」って言って「3千本???」ってなったことないのか?
おっと、俺もノリノリで脱線しちまったな。閑話休題ってやつだ。
まあ、まさにタンスの話だ。なんも面白みのねぇ部屋だが、タンスの中には面白いものが入ってるかもしれない。タンス貯金とかいうくらいだ、なんかいいものないかと思ってワクワクしながら開けたわけだ。
結論を言うと面白いというより、気味が悪かったな。なんせ、タンスの引き出しから、振り子の付いた掛け時計が出てきたんだからな。プライベートの時間に時計に縛られたくなかったのか?奴に限ってそんなことはないとは思うんだけどな。仕事や時間に縛られるのが生きがいの人間のはずだからな。
タンスに入る程度のそんなに大きいわけでもない、よく言えばアンティークで重厚感と存在感のある時計だ。悪く言えば?そら、古くて気味の悪い時計だな。
しかしなあ、気味悪いと言ったが、取り出して触ってるうちに、だんだん手放すの気持ちを失くさせてしまったんだよな。あれはほんと今でもわかる。ほんと気味が悪い感じだった。
俺はそれを寝室の壁に飾った。悲しいかな、蛙の子は蛙とはよく言ったもんで、俺も時間に縛られて生きるのは嫌いじゃない。
だから、見えるところに置いておきたかったんだよ。
だったら、リビングに置いたらいいじゃないかって?確かにな…俺もよくわからねぇな。
その日の夜、俺は夢を見た。
夢つっても、将来の夢とか、夢と希望、みたいな類ではないぜ?寝るときに見るアレだな。そんなのわかってる?あんたがよく話の腰を折るような、相槌というか返事をするからだろ!
ん?話を戻せって?わーったわーったよ。
夢の内容の話なんだがな、夢を見るというか、夢に入ったような感じがするんだよ。 夢に落ちてすぐに分かったんだよ。これ夢だなって。
夢の中の光景もまた現実離れしてるのはあるかもな。あるのは、ビルやアスファルトなんかじゃなくて、木々と草。こういうのを樹海っていうんかな?
都会に住んでるやつからしたら経験したことない光景だと思うぞ。
かくいう俺もその中の一人だ。なに?森ぐらい入ったことあるだろって?知らねえよ、お前の価値観なんて。
そして、近くの木にあの気味悪い時計が、かけてあったんだ。いくら気味の悪い時計とは言えども、知ってるものがそばにあるってのはすごく安心するもんだ。
とはいえど、クソ親父の形見に安心を感じてることに不快感を感じた俺はぶっ壊してやりてえなと思ったわけだ。まあ、夢の中だから何したって許される。まあ、展開は読めるだろ?
思いっきりぶっ壊したら目が覚めたわけだ。
この時点でもキモイ夢なんだがな、この程度なら俺だってここには来ない。
そうそう、そうなんだよ!よくわかったな!てか、人の話の落ちを先に言うなよな。
あんたの言ったとおりだよ。そしてこれが現物だよ。
カキタバルはそういうと、キャリーケースからたたきつけられて壊されたような時計を取り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます