第35話
「読んだわよ。隅から隅まで何回も」
「だったら森村茜に犯行は不可能だって分かるだろ?」
「何でよ?」
あたしがムキになると
「犯行時刻には東京に居なかった。忘れたか?
どうやって北川を殺害する」
「まさにトラベルミステリーじゃない。彼女は新幹線を利用せず
別ルートで9時前に東京に到着してたのよ」
真柴があきれたように首を振った。
「2時間サスペンスの見過ぎだ。警察だって馬鹿じゃない。
その辺の裏はちゃんと取ってるはずだ」
それでもあたしは食い下がった。
「それなら、誰かに殺人を依頼した」
「誰に?」
「…殺し屋?」
ため息と共に吐き出された言葉。
「三流ドラマじゃあるまいし…」
ふん!どうせあたしの推理なんて三流ですよ。
すっかり気の抜けたジンジャーエールをストローで一気に吸い上げた。
横目で真柴を見ると、通りかかったボーイを呼びとめ小声で何かを
話しかけている。
ボーイは頷くと、すぐに立ち去った。
「それじゃあ、仲村先生が犯人なの?」
あたしが尋ねると、少し考え
「いや、おれも仲村は睡眠薬で眠らされていたんだと思う」
「真犯人は?」
思わず身を乗り出す。
「さぁな…今の段階じゃ誰が犯人か断定できない。
もう少し調べたい事もあるし…」
何だ、真柴のことだから、とっくに犯人が分かっているんだと思ったのに。
あたしは、がっくりと肩を落とす。
「そろそろ行くか」
不意に声を掛けられ、顔を上げると目が合った。
真柴は甘く微笑むと、顔を寄せてきた。
耳元で囁く。
「男が女に服を贈るのは、それを脱がせるのが目的だって話、知ってるか?」
あたしは、頬が熱くなるのを感じた。
反射的に振り上げた右手は、あっさりと掴まれ、そのままぐっと引き寄せられた。
すぐ目の前に迫った真柴の顔を、思いっきり睨みつける。
突然、真柴が笑い出した。
「まったく…相変わらず気の強いお嬢様だな。冗談だよ。
下に徹を呼んである。家まで送らせるから」
あたしが憮然として、掴まれていた手を振り払うと、ちょっと肩をすくめた。
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