第34話
真柴の話しを聞いたあたしは、酸欠状態の金魚の様に口を
ぱくぱくさせていた。
大きく2回深呼吸をして、なんとか気持ちを落ち着かせる。
「で、その生徒の名前聞いたんでしょ?誰なの?」
「ん…何て名前だったかなぁ」
勢い込んで尋ねるも、軽くかわされてしまう。
「いいわよ、あんたの正体、山崎先生にバラしてやるから!」
あたしが意地悪く言うと、片方の眉を上げにっと笑った。
「そんな事したら、困るのはお嬢だ。どう説明する?」
言葉につまってしまう。
あたしが、黙り込むと
「大河内」
ぽつりと呟く。
「え?」
「大河内…万里子っていってたな」
大河内さん?!
目を丸くして、真柴の顔を見る。
「知ってるか?」
「うん。同じクラスになったことはないけど…
幼児部から聖ニコルよ。確か、御両親は旧家の出で、飲食チェーン店を
経営してるって聞いたことがある」
色白の丸顔と、肩の辺りで切りそろえられた、絹糸のような黒髪のせいで
同級生たちよりもずっと幼く見えた。
担任の先生と『お付き合い』をするようにはとても思えない…
「ねえ、大河内さんて、本当に…あの…その…」
あたしが赤くなってうつむくと、面白そうに覗き込む。
「何?」
「だから…えっと…もういいよ!」
真柴がクスクス笑い出した。
「さあな。美嘉さんはそう言ってたけど。まあ保健のセンセイが
言うんだから間違いないんじゃねぇの?」
「そう…」
不意にある考えが頭に浮かんだ。
「北川先生の婚約者―――森村茜さんは先生の浮気を知ってたのかなぁ」
首を傾げる真柴に向かって、あたしは言った。
「真犯人は、森村茜よ!」
「はぁ?」
真柴は驚いた顔をする。
「あたし、ずっと不思議に思ってたの。自分が宿直の日に
学校で殺人事件を起こすなんて不自然じゃない?
普通は疑われないようにアリバイ工作をするものでしょ。
眠ってて気づかなかったなんて、あまりにもお粗末な言い訳だと思わない?」
頷くのを確認してから、話しを続ける。
「調書には、北川先生が睡眠薬を服用してた事が書かれていたわよね」
「イソミタールか」
「そう。仲村先生はその薬を飲まされて、犯人に仕立てられたのよ」
「一服盛ったのが森村茜?」
あたしは大きく頷いた。
「婚約者の茜なら、先生が睡眠薬を持っている事を知っていたはずだし
合鍵で部屋に入って薬を持ち出す事も可能でしょ。
今回の事件は、北川先生と大河内さんの関係を知った森村茜が
嫉妬に駆られて起こした、計画的犯行よ!」
真柴を見ると、腕を組み目を閉じている。
ちゃんと聞いてるのかしら?もしかして寝てる?
様子をうかがっていると、そのままの姿勢で
「それで?」
と促された。
「え?」
「お嬢はちゃんと調書を読んだのか?」
真柴は目を開けると、まっすぐな視線を投げかけた。
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