第31話
話終えると、美嘉は深いため息をついた。
「結局、私が研修を終えて、出勤した日から北川先生は
1週間、風邪で学校をお休みされて…
その後も、二人きりになるチャンスがなかなか無くて
返しそびれているうちにあんな事になっちゃったでしょ…
ご遺族に渡す訳にもいかないし…で、ぱっと使っちゃえって…」
そう言うと苦笑いを浮かべた。
「成程。でも、おかしな話ですね。
一生徒の為にそんな大金を出すなんて…」
その瞬間、美嘉の顔が険しくなった。
「これは私の勘なんだけど」
眉根をぎゅっと寄せ、真柴の顔を見る。
「相手って、北川先生だったんじゃないのかしら」
真柴はゆっくりと頷いた。
多分に美嘉の主観が盛り込まれた話である以上
全てを鵜呑みにする訳にはいかない。
それでも、実際に北川が口止め料と思われる金銭を
渡している事を考えれば、あながち間違った答えではないのだろう。
「北川先生が亡くなって、あの子どうするのかしら…」
美嘉は遠い目をした。
「私、気になって生徒名簿で彼女の家の電話番号を調べたのよ。
何回か掛けてみたんだけど、解約のアナウンスが流れて
全然繋がらないの…」
心配だわ。そう呟いた。
「美嘉さん、聞いてもいいですか?」
「何?」
「その子の名前、教えてもらえませんか?」
美嘉は、目を丸くした。
「何でそんな事聞くの?」
真柴は涼しげな顔で答える。
「好奇心ですよ」
「悪趣味ね…」
と笑った。
「まぁ、いいけど。彼女の名前は……」
北川との一件を全て真柴に話すと、胸のつかえが取れたように
いっきに美嘉のピッチがあがる。
「まったく、うちの学校のお嬢様たちときたら、教師なんて
使用人程度にしか思ってないの。
まして、保健のセンセなんて、それ以下の扱いよ!
―――――ねぇ、聞いてる」
余程『お嬢様たち』に不満があるのだろう。
美嘉の愚痴はとまらない。
お嬢が聞いたらぶち切れそうだな…
真柴は内心苦笑した。
「美嘉さん、お待たせ」
聖也がヘルプ二人を引き連れて戻ってきた。
真柴の肩を叩くと
「マネージャーが呼んでますよ」
と早口に言う。
真柴は頷くと、グラスの酒を一気に飲み干した。
「ご馳走様でした。失礼します」
頭を下げ、事務所に向かう真柴の耳に、美嘉をなだめる
聖也の声が聞こえた。
やれやれ…つい、安堵のため息が漏れてしまう。
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