第28話

保健室に到着する頃には、足取りもしっかりしてきたが

その顔色は、相変わらず青白い。


とりあえず、椅子に掛けさせベッドを整えながら尋ねる。


「貧血かな?今までも倒れた事あった?」

―――――返事は無い。

「朝から体調が悪かったの?」

無言のまま俯いている。


…まぁ、いいか…


「上着脱いで、横になっ…」

「うっ…」


突然、うめき声が聞こえた。

驚いて振り向くと、少女が口を押さえて洗面台へと走って行くのが見えた。

洗面ボールの縁に手を付き、何度かえずく。


「大丈夫?」

少女の背中をさすってやった。

「あなた、もしかして…」


「言わないで!」

少女は振り返ると、思いがけない程の強い力で美嘉の腕をつかんだ。

「先生。お願いだから、誰にも言わないで下さい」


美嘉は、黙ってうなずくと少女を椅子に座らせた。

「病院には行ったの?」

首を横に振る。

「相手の人には話した?」

「………」


美嘉はため息をついた。

「一度病院で診てもらいなさい。それから、相手にもちゃんと話す事!

 あなた一人で解決できる問題じゃないでしょ?」

少女は、力なく頷いた。


産むつもりなのだろうか?

美嘉は少女の横顔をそっと盗み見た。

『妊娠』などという言葉とは、おおよそ無縁のような幼さが残っている。


「少し横になりなさい」

「いえ、もう大丈夫です」

少女は、ゆっくり立ち上がった。


「お迎え来るの?」

「…はい…」

「そう。あまり無理はしないでね」


少女は一礼をし、ドアの方へと向かう。


「あ、ごめんね。利用者名簿記入してもらってもいい?」

美嘉が名簿を差し出すと、整った文字でクラスと名前を書いた。


「何かあったらいつでも相談にいらっしゃい」

「はい」


顔を上げた少女は、はじめて笑顔を見せた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る