第27話

テーブルの上のグラスが片付けられ、ホスト達がそれぞれの席に戻っていく。

コールが終わった後、指名の入った葵も席を立ってしまった。


「どうもご馳走様でした」


真柴が頭を下げると、美嘉は微笑んだ。


「いいのよ。臨時収入があったから…

 あまり手元に置いておきたくないお金だったし…」

そう言うと、ハッとして口元を押さえた。

「ごめんね。こんな事言ったら、気を悪くするわよね…」

真柴が笑った。


「姫がホストに気を使ってどうするんです?

 何でも話してください」

その言葉を聞いて、ほっとした表情を浮かべた。


真柴は目を細め、美嘉の顔を見る。

何か隠してる…直感でそう思った。


「実はね…」

声のトーンを落とし、真柴の耳元に口を寄せる。

「臨時収入っていうのは、北川先生から渡されたお金なのよ」

「え?」


これにはさすがの真柴も、驚きの声を上げた。


「今月の始めの事なんだけど」

そう前置きをして、話し始めた―――――



その日の放課後、美嘉は保健室で生徒に配布するプリントを

作成していた。

突然ドアが激しくノックされ、一人の生徒が飛び込んできた。


「先生…大変…で…す」

生徒は、ハアハアと荒い息を吐き、かすれ声で言った。

「どうしたの?」

「うちの部員が突然倒れちゃって…先生、すぐ来てください」


顔をよく見ると、書道部の部長だった。

「書道室?」


大きく頷くのを確認すると、保健室を飛び出した。

まったく、今時の子は体力が無さ過ぎ。

ましてや、うちの生徒達ときたらほとんどが車通学で、

運動不足もいいところだわ!


ぶつぶつ文句を言いながら、旧校舎へと向かった。


2階の突き当たりにある書道室に入ると、15畳ほどの和室の

中央に人だかりが出来ていた。


小柄な少女が、数人の生徒に支えられるようにして座っていた。

その顔は、紙のように白く、目はうつろに一点を見据えている。


「大丈夫?」

駆け寄ると、右腕を支えていた生徒が、今にも泣き出しそうな顔で

「みんなでおしゃべりしてたら、いきなり立ち上がって…倒れたんです」

と言った。


「…せん…せい…」

血の気の失せた唇から、蚊の鳴くような声が漏れる。

「保健室で…休ませてもらってもいいですか?」

「いいけど…もう少しここで横になっていた方がいいんじゃない?」


美嘉の言葉に大きくかぶりを振った。


「歩ける?」

「はい」

よろけながらも、ゆっくり立ち上がった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る