第24話

「失礼します」


真柴が顔をあげると、浅倉が立っていた。

浅倉は跪くと、真柴の耳元に口を寄せる。


「あちらのお客様からご指名が入っていますが」

浅倉の視線の先にはOL風の女が2人座っていた。


「悪ぃけど、適当に断っといてくれ」

真柴が早口に囁くと、浅倉は頷いた。


「失礼いたしました」

素早く立ち上がると、美嘉に一礼し、OL達のいるボックス席へと向かう。


浅倉が何事か告げると、2人から「えー」という声があがったが

それも束の間、店のNO2 大河たいがが席に着くとすぐ

不満の声は嬌声に変わった。


「指名入ったんでしょ?

 いいの断ったりして。後で叱られるわよ」

美嘉がワインを飲みながら、意地悪く言った。


「えっ?」

「向こうのボックスの2人、さっきからずっとこっち見てたのよ。

 気付かなかった?」

真柴は目を細めて笑った。

「全然気付きませんでした。ずっと美嘉さんの事を見てましたから」


目を丸くした美嘉の頬が、みるみる赤く染まっていく。

横に座っていた葵が、フンと鼻を鳴らした。


「今夜はジン君の入店記念にシャンパンあけちゃおうかな…

 ドンペリの黒をお願い」

「ええ!」

真柴より先に、葵が大きな声をあげた。

恨みがましい目で美嘉の横顔を見る。


ドンペリ…しかも黒は1本30万もする代物だ。


「いいの?美嘉さんの担当は聖也さんでしょ」


葵が口元を歪めながら意地悪く忠告するが

美嘉は気にする様子も無く、右手をあげると

「クロドンお願いしまーす」

と叫んだ。

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