第22話
「美嘉さんって女医さんなんですか?」
ホストが客の職業を聞くのはタブーとされているのだが…
敢えて口にする。
「えっ、私?違うけど、何で?」。
「いや、さっき口内炎にはビタミンB2だって言ってたんで…」
ああ、そう言う事ね…美嘉は頷いた。
「私、学校医なの。保健室のセンセ」
真柴は、正面から美嘉を見つめた。
何?という顔をして見返す。
「へぇ、美嘉さんの白衣姿見たいですね。
おれが美嘉さんの学校の生徒なら、保健室入りびたりですよ」
美嘉はフフフッと笑って、
「残念ね。私の勤めてるのは女子高なのよ」
「ええ、そうだったの。
美嘉さんって、あんまりプライベートな話してくれないから
全然知らなかったよ」
葵が、ちょっとすねたように口を尖らせる。
「女子高っていえば、何日か前に殺人事件があったって
騒いでましたよね?」
さりげなく、真柴が言うと、美嘉は眉をひそめた。
「実は、それうちの学校なの…」
「ええ!そうなの?!」
聖也と葵が同時に叫んだ。
「ねえ、美嘉さんも事情聴取とか受けたの?」
葵が目を輝かせる。
美嘉は、グラスのワインを一気に飲み干し、苦笑いを浮かべた。
「…まあね」
すごい、すごい!葵は、はしゃいだ声をあげた。
お客との話題づくりの為、新聞やお堅いニュース番組も見るように
言われているのだが、ちっとも興味が沸かない。
その代わり、こんなワイドショーネタは大好きだった。
「じゃあ、犯人も殺された先生も知り合い?」
「ええ、知ってるわよ」
「犯人って、普段から凶暴そうな男だった?」
葵は矢継ぎ早に質問を投げかける。
そんな様子を黙って見ていた真柴は、フッと口元に笑みを浮かべた。
喰いついてきたな。
葵が入店して3ヶ月。その間何度か接客の様子を見る機会があった。
仕事帰りのキャバ嬢やホステス達と、いつもゴシップやワイドショー
ネタで盛り上がっていた。
ちょっと話題を投げ掛けてやれば、すぐに喰いついてくるのは目に
見えていた。
「ねぇ、美嘉さん教えてよ」
「おい、葵」
ますます調子付いてくる葵を見かね、聖也がたしなめるも
そんな事はお構いなしだ。
美嘉は困ったような顔をしたが、甘え上手の葵の上目遣いには適わない。
肩をすくめると、空のグラスを葵の前に差し出し
「喉が渇いちゃった。ラ・クレマの赤をお願い。話はその後よ」
と言った。
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