第21話
「ジン君、前はどこのお店にいたの?」
「初めてですよ。こういう仕事は」
「へぇ…」
美嘉は、意外だという顔をした。
「ねえ、美嘉さん。さっきの話の続き」
二人の会話に割って入るように、美嘉の右脇に座っていた
ホストの
「口内炎てビタミン不足が原因なんだよね?
フルーツ食べる治るのかなぁ?」
美嘉はちょっと眉を下げて笑うと
「ビタミンっていってもB2なんだけどね…
葵くんには敵わないな。
いいわよ、フルーツ盛りお願い」
ウェイターがフルーツの盛り合わせをテーブルに運んできた。
メロン・いちご・りんご・マスカットにオレンジ。
産直でも無農薬栽培でもない、ただのフルーツが一皿1万5千円也。
『毎度あり』真柴は心の中で呟いた。
「じゃあ、もう一回乾杯しない?
ジン君何飲む?」
「水割りをいただきます」
ウィスキーの水割りを作る真柴の指先を眺めながら、美嘉が言った。
「ねぇ、本当に水商売初めてなの?」
真柴が首を傾げて聞き返す。
「そうですよ。なんでですか?」
「さっきグラスをテーブルに置く時、間に小指を挟んだでしょ。
音を立てない為よね?
最近マナーの悪い子が多いから、どこで身につけたのかなぁって思って」
「ああ、マネージャから教えてもらったんですよ」
「そうなの?」
納得いかない、そんな顔を一瞬見せたが、それ以上は何も言わなかった。
「美嘉さん、早く乾杯しましょうよ」
聖也に促され
「乾杯!」
とグラスを掲げた。
―――――危なかった。
真柴はゆっくりと息を吐き出す。
美嘉に言った言葉は、決して嘘ではない。
実際、ホストとして客を接待するのは初めてだった。
ただ、店のオーナーとして、ホストの仕事内容やルール、マナーなど
一通り身に着けていたのだ。
それにしても、この女―――――…
聖也にもたれかかり、いちごを食べさせてもらっている美嘉を
見遣りながら思った。
ただのチャラチャラした女にしか見えないが、なかなか鋭い観察力じゃねぇか。
かなり面白い話が聞けそうだな。
真柴の細めた瞳に挑みかかるような光が浮かんだ。
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