第20話

「ねえ、あたしはあんたとお茶しにきた訳じゃないの。

 話す気がないなら、帰らせていただきたいんですけど」


あたしが立ち上がろうとすると、真柴はやれやれという顔をして

肩をすくめた。


「分かったよ…関係者っていうのは、お嬢の学校の色っぽい保健のセンセ」

「え?山崎先生?」

「そうそう、山崎…美嘉。彼女、うちの店の常連客だったんだよ」


うちの店って?


「あんたン家って、建設屋さんじゃなかったの!?」


あたしの反応を楽しむように、にやっと笑った。

「バブル崩壊以降、建設業界も不況でな。

 生き残りをかけて新規事業に投資してるって訳。

 で、おととしからホストクラブを始めたんだよ」

「ホストクラブ!」


つい大きな声が出てしまい、あわてて口を押さえた。

生き残りをかけた新たな投資がホストクラブなんて…

ただの道楽としか思えないけど…


「お嬢も遊びに来る?」


「行かない!!」

あたしは、即答した。


「彼女はオープン当初から、うちに通ってくれてる常連さん。

 毎月給料日後の週末に来店するらしい」

「それで、昨日山崎先生に会って話を聞いたのね」


真柴は、ゆっくり頷いた。


*   *   *   *   *   *   *   *


「あちらのボックスのお客様です」

ホストクラブ『紫音』のマネージャー浅倉が目配せをした。


フロアー中央の席には、保健医 山崎美嘉が若いホストを両脇に侍らせ

女王然と座っている。


根元から強く巻かれたゴールドブラウンの髪に、つけまつげを

装着した濃い目の化粧、胸元の大きく開いたミニのワンピースを纏う姿は

おおよそ学校勤務とは思えない。


―――――まるでキャバ嬢だな。


これが美嘉に対する、真柴の第一印象だった。


「いらっしゃいませ」

真柴はボックス席の前で足を止めると、頭を下げた。

美嘉が顔を上げる。


「あら、新人さん?」

「はい、本日入店しました」


値踏みでもするように、頭の先から足元まで視線を移す。

「で、お名前は?」


…名前?

真柴は軽く目を伏せると

「ジンです。よろしくお願いします」

もう一度頭を下げた。


その目線の先には『JINRO』のボトルが置かれていた―――…


美嘉は「合格」と小さく呟くと、満足気に微笑みながら

「いいお名前ね。あなたもこちらに座ったら」と、店のNO1ホスト

聖也せいやの隣の席を勧めた。


「失礼します」

そう言うと、指定された席に腰を下ろした。


さて、どうやって話を聞きだすかな。

当然尋問なんて真似は出来ない。


あくまでもホストとして、さりげなく…



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