第19話

地上14階から見下ろす夜景は、宝石箱をひっくり返したように

色とりどりの輝きが溢れていた。


純白のシルクのドレスを纏い、夜景を眺めながらグラスを傾ける。

なんてロマンチックなのかしら…


一緒にいるのが、この男じゃなければね。


「ねえ、何であたしはオレンジジュースなのよ」


ドンペリ・ロゼを給仕してもらっている真柴を睨みつける。


あたしの睨みなど気にすることも無く、余裕の微笑みを浮かべながら

「お嬢、知らないのか?

 未成年の飲酒は法律で禁止されてるんだぜ」


きぃ―――っ。やっぱり、こいつ超ムカつく。

あたしがワインボトル1本くらい、平気で空けられる事知ってるくせに!

グラスのジュースを頭からぶっ掛けてやりたい衝動をぐっとこらえて


「せめて、ジンジャーエールにしていただけないかしら?」

と精一杯の笑みを浮かべてみる。


「…って、そんな事より電話で言ってた『警察も知らない話』を聞かせてよ。

 あんたから贈られたドレスを着て、あんたが指定した場所へ

 あんたが指定した時間に、あんたが手配した車で来てやったんだから 。

 早く教えなさい!」


あぁ、まるで早口言葉みたい…


真柴はふっと微笑むと

「そんなに睨むなよ、折角の美人が台無しだ」

とさらっと言ってのける。


「そのドレス、すごく似合ってる」

「あ、ありがとう」

ドレスっていえば…あたしは気になっていた事を口にしてみた。


「ねえ、これってあんたのお見立てよね?」

「ああ」

「何であたしのサイズが分かったの?」


ドレスを着た時から不思議に思っていた。

既製品にしては、妙にしっくりきたのだ。


多少のお直しがはいってるとしか思えない。


「そんなの、一回抱けば分かる」

真柴は事もなげに言った。


だ・だ・抱くって…


「な、なに言ってんの。あんたに抱かれた覚えなんてないわよ!」

テーブルを叩き、思わず立ち上がると、その弾みで椅子が倒れた。


はっとして周りを見ると、みんなの視線があたしに集中していた。

ボーイがあわてて椅子を直してくれる。


あたしは、真っ赤に火照った頬を押さえ、静かに腰をおろした。


「忘れたのか?前の事件の時の事」


あっ!


暴漢に襲われそうになった時、真柴に抱きかかえられたけど…

そんなの一瞬の事だったし…


探るように真柴を見ると

「それで十分だ」


涼しげな顔でグラスのドンペリを一口飲んだ。

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